ブラジル マンダカルー物語=黒木千阿子=(21)
けれどもその前に、これから二度とこんな間違いをおこさないために「ひよこ」「おちんちん」「ひよこ」「おちんちん」と日本語で言うようにしましょうと頼みました。
「ひよこ」「おちんちん」「ひよこ」「おちんちん」
子どもたちは、歌うようにくり返し、くり返し、完全に暗記できたところでグアラナで乾杯です。
ところが、全員の口から出た言葉は、「チン!チン!」(乾杯のこと)そこでまた「おちんちん」を連想したこどもたちは、互いに顔を見合わせ、飲み込んだグアラナで喉を詰まらせながら大笑い。
その時、笑いもしないでイアーゴが
「僕、もう決してチンチンって言わないよ。言ったらその度に変な事思い出しちゃうから」
と、7才にしては妙にませた口を利き、おまけにおじいさんのように首を左右に振って嘆いたのです。
そして、もう一人コンピューターやインターネットが学べると勝手に思い込んでやって来たポリットは、来たそうそうに女の子たちの前で、
「ひよこ」「おちんちん」と言われたものですから、
「こんな調子で日本語を勉強することが、はたして僕のプラスになるのかどうか?」
と、そんな疑問を私につぶやいたのです。
それから少したったある日、都会の町サルバドール(バイーア州都で、元ブラジルの首都)からやってきた女の子のグレースが、みんなに一、ニ、三を英語で教え始めました。
向学心に燃えている子どもたちは、ワン、ツースリーから、あっという間にエイト、ナイン、テンと覚えてしまいました。
さあ、次は知らなかったようで、困った顔をしていました。
ところが、勘のいいヤーラが立ち上がって甲高い声で言ったのです。
「テンワン、テンツー、」
つられて、全員が立ち上がって国歌を斉唱するかのように
「テンフォー、テンファイブ・・・・」
ところが、テンナインと言ったところで息を吸い込んだ子どもたちは、言葉につまってしまいました。それで、私がとっさに助け船。
「テン・テンよ」それから、子どもたちは手拍子を打って、テン・テン・ワーン、ハイ・ハイ・ハーイと腰を振って踊りだしました。
このまま放っておくわけにもいかず、私はストップをかけ漢数字を一から十九までおさらいした後で、「20を漢数字で書くとどうなるでしょう?」すると子どもたちが、ちびた鉛筆をいなめなめノートに書いたのは、十十。つづいて私が、「21は?」と、言うと、十、十一。やっぱり私が予想した通りでした。私はすかさず板書きしながら、「20は、テン・テン。つまり十が二つのこと。だから二十なの。テン、テン、ワンは、二十一よ。わかったでしょう?」
こうして、このあと、子どもたちは一気に九十九まで漢数字を覚えてしまっったのです。