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《記者コラム》南研子「アマゾンがカサカサ」=地球の変わり目を肌で実感=破滅しない希望を持つために

2025年9月2日

講演する南研子さん
講演する南研子さん

「一昨日まで電気水道、トイレもない集落」

 東京都出身の環境活動家、南研子さん(NPO法人「熱帯森林保護団体」(www.rainforestjp.com/)代表)は、「一昨日まで約1カ月間、電気水道、トイレもないインディオの集落にいました。昨日、大都市サンパウロへ。まだ頭の中が整理されていません。とりあえず感じたことを喋ります。行くのは36回目なんですが、インディオの集落といえば、ジャングルの中のジメジメした森の中というイメージじゃないですか? 今までは確かにそうだったんですが、今回森に入って驚いたのは奥の方に入っても、カサカサに乾燥していたことです。地球の変わり目を肌で感じました」と講演を切り出した。

 駐在員夫人の勉強会「ブラジルを知る会」(清水裕美会長)は8月18日午前、サンパウロ市南部のレストランで講演会を開催した。会員や非会員ら約40人が集まり、シングーのインディオ集落について耳を傾けた。講演の様子は本紙ユーチューブで動画(https://youtu.be/rK1_heIMVNA)を公開中なので、詳しく知りたい人はそちらでどうぞ。

 南さんは1989年、ロック歌手スティングが行ったアマゾン環境保護を訴えるワールドツアーに同行した際、アマゾンのカヤポ族リーダー、ラオーニさんと出会い、環境保護活動を決意。以来、毎年のようにジャングル生活を共にする機会を設けている。

 「昨年8月、ガリンペイロによる火の不始末から発生した未曾有の大火は雨季まで鎮火せず、森の恩恵で生きているインディオや野生生物に甚大な被害をもたらしました。この出来事は全てと言ってもいいほど、インディオ社会が原因ではなく、文明社会の価値観が起こした結果です。経済優先の発想から森が資源として『金』に換算されて消滅し、熱帯雨林の高温化、乾燥化に拍車がかかりました。本来『金』とは無縁のインディオの人たちが水銀汚染の犠牲を始めとして、さまざまな不幸を背負わされる。先進国の豊かさ、便利さを支えるためにアマゾンは崩れていくんです。私たちの生活のあり方を見つめ直すことは、とても大切」と切々と訴えた。

マット・グロッソ州アウト・シングーで2024年10月3日、シングー部族の一つワウジャ族の式典の様子(Alaor Filho/Fotos Publicas)
マット・グロッソ州アウト・シングーで2024年10月3日、シングー部族の一つワウジャ族の式典の様子(Alaor Filho/Fotos Publicas)

違法採掘金が欧米や中東で流通する現実

 この話を聞きながら本紙8月6日付《検問で金塊103キロ、16億円超=年間数十トンが違法流通》(brasilnippou.com/ja/articles/250806-41mangekyou)記事を思い浮かべた。最北端ロライマ州で8月4日、国内史上最大級の金塊が警察に押収された件だ。時価6100万レアル(約16億3550万円相当)超、総重量103キログラムにのぼる金塊が高級乗用車に隠されていたのが見つかった。

 その記事の締めくくりには、《フォーラム・ブラジル政治科学サイト(www.scielo.br/j/bpsr/a/MDzNk5sHMW47k7sDx9QMT3S/)の論文によれば、2021年単年だけでも最大53トン(約25億ドル相当)が違法採掘されて欧米中東などに出回っていると推定される。2024年12月26日付Vitalsignsサイト記事(vitalsigns.edf.org/story/turning-tide-against-illegal-gold-mining-amazon)によれば、専門家の見解では全採掘金の30%〜50%が違法もしくは疑わしい形で輸出・流通している可能性がある。ブラジルで違法に採掘され世界に輸出されている金の量は、年間数十トン(最大で50トン程度)にのぼり、世界市場において無視できない規模》とある。

 その多くがインディオ保護区に不法侵入したガリンペイロによる違法採掘で、その結果、インディオ居留地周辺で水銀中毒、それまでなかった感染病拡散、レイプ事件などが起きている。

 そうして持ち出された金塊は欧米や中東で売り捌かれ、豪華な貴金属アクセサリーに加工されて先進国で流通している。アマゾンが壊されていくのは、ブラジルの先住民族保護政策が脆弱なせいだけではなく、ガリンペイロのせいだけでもなく、究極的には先進国でその金商品を買う消費者がいるからだ。遠く離れた国での消費行動が、熱帯雨林を乾かし命を奪っている。

インディオ保護区Triunfo do Xinguの違法金採掘地の様子
インディオ保護区Triunfo do Xinguの違法金採掘地の様子

希少鉱物資源に群がる先進国

 これと同じような構図は森林の違法伐採にもあるし、その結果生産されるのは大豆やトウモロコシ、肉牛などだ。それは主に先進国に輸出される。

 近年は米国を初め、7月26日付本紙《米国がブラジルの希少鉱物狙う?=ニオブが関税交渉のカードに》(brasilnippou.com/ja/articles/250726-41mangekyou)にあるように、先進国がブラジルの希少鉱物資源開発に目を向けている。その多くは先住民保護区にある。

 その結果、8月1日付本紙《「採掘後の生活はどうなる?」=リチウムが奪う先住民の未来》(https://brasilnippou.com/ja/articles/250801-51mangekyou)のような現実が南米に訪れる。

 これは、世界有数のリチウム埋蔵地として注目を集めるチリ北部のアタカマ塩原の事例だ。電気自動車や再生可能エネルギーの鍵を握るリチウム需要の急増は、乾燥地帯の貴重な地下水資源を圧迫し、生態系の変化や先住民の伝統的生活の困難を招いていると7月27日付BBCブラジル(www.bbc.com/portuguese/articles/ckg37npj40ro)が報じた。

 同記事の中ほどには《住民の一人サラ・プラサ氏は地域の将来について「塩原はリチウムを産出しますが、いつかは枯渇して採掘も終わります」と前置きし、「その後、ここの人々の暮らしはどうなるのでしょう? 水もなく農業もできなくなったら、一体何で暮らしていくのでしょう?」と涙を流した。「企業は地域に少しばかりの金銭を提供しているが、私はそんなお金より、自然と共に暮らし、飲み水がある生活がずっと続く方がよほどいい」と訴えた》という悲しすぎる先住民のコメントがある。

松田ナオミさん
松田ナオミさん

インディオ集落で普通にネット使える時代に

 松田ナオミさんによれば「今回驚いたのは、村の中でもネットが使えるようになっていたこと。インディオが普通に携帯を使っている。以前はもっと町の方にある保健所まで行かないと使えなかった。スターリンクが普及した影響は大きい。電気も水道もないところでSNSを見ている。インディオ独特の世界観を左右されるという意味で、特に子供には良くないと感じた」とのこと。

 これを聞いて本紙2024年6月8日付《ネットがアマゾン先住民に悪影響=伝統への関心減退や性的行動変化も》(brasilnippou.com/ja/articles/240608-11brasil)で報じた事態がシングーでも起きていると痛感した。

 スペースXが提供する衛星通信サービス「スターリンク」の導入により、アマゾン地域の先住民族に進歩をもたらす一方で、ネット利用が彼らの伝統的な習慣を変えていると懸念されている。ワッツアップやSNSの影響で、若者の文化的活動が減少し、ポルノ動画の影響で性的行動が変化していると報告する記事だ。《ツァイナマ・マルボ氏(73歳)によれば、ボディーペインティング、果物採集、貝殻を使ったアクセサリー制作などの伝統的な文化活動は、若者たちには以前ほど魅力的に映らなくなった》とのコメントが掲載されている。

「日本人は札束を握ったまま餓死する」

 南研子さんは「集落では、ついさっきまでピンピンしていたサルが、2時間後には料理されて出てくる。自分は、他者の命をいただいて生きているのだと実感する。東京にいて、皿の上に盛られたステーキを見て、命あるものだと思っていない。そこにくるまでのプロセスが見えないようにお金を払っている。だから命と切り離されてしまっている。皆さん、食べる時にはいつも『(命を)いただきます』と感謝してください。日本の食料自給率は40%、60%は輸入です。戦争とか起きて食料が輸入できなくなれば、日本人は札束を握ったまま餓死することになります」と警鐘を鳴らす。

 「アマゾンの子育ては集落みんなでやります。子供が親と喧嘩したら隣の家で勝手にご飯を食べたり、他の家に行けばいい。人間関係でノイローゼになることがないから親殺しがない。文明の発展で人はノイローゼになり、日本では3万人以上が自殺する。社会に出ていない子供だけで500人以上自殺しているけど、アマゾンでは子供は生き生きとしている」とも。

著書『アマゾンのふしぎな森へようこそ』(合同出版、2023年刊)
著書『アマゾンのふしぎな森へようこそ』(合同出版、2023年刊)

過剰消費文明の中でアマゾン支援する意味

 エコロジーや環境運動すらも消費行動のパターンの一つに飲み込まれていくという、現在の圧倒的な過剰消費文明の中で、アマゾン支援をすることの意味を最後に問うと、南さんは少し考えた上で次のよう言った。

 「確かに人類は破滅への道を進んでいると思う。だとしても希望ぐらい持ってもいいじゃない。だからこうやってアマゾン支援をしている。人類が全滅しなくてもいい文明になれると、希望を持つことも本能だと思う」と答えた。正直な物言いにとても好感を覚えた。

 コラム子は常々「たとえ人類が滅んだとしても自然は無くならない。地球はいつも通りに朝を迎える。『地球を守ろう』『自然を守ろう』という発想自体が、人類の不遜な考え方だと思う。人類が生まれて滅亡したとして、困るのは人類だけ。滅びたことも含めて、大自然の営みの一つに過ぎない。人類は自然から滅びるようにプログラムされた種であっただけのこと」と諦観することも一つの考え方だと思う。

 コラム子は戦争は絶対に避けるべきと固く思っている。戦争を望む者はいない。だが歴史を動かすのは一握りの権力者と巨大企業だ。第3次世界大戦が囁かれ、核戦争の影もちらつく今、むしろ人類の滅亡は自然への救いかもしれないとすら思う。

 大戦が起きるのではあれば、今回も北半球が主舞台となるだろう。そうなっても南米アマゾン地域に居住している文明未接触の民族などは、現在の文明があったことすら知らずに生き延びる可能性がある。人類の希望はそこにあるのかもしれない。南研子さんの話を聞きながらそんな夢想をした。

 とても共感できる内容だと感銘を受け、ぜひ彼女の著書『アマゾンのふしぎな森へようこそ』(合同出版、2023年刊)を読んでみたいと思った。

 アマゾンは遠い。だが、実は私たちの消費行動、生活習慣、そして文明そのものが、森を乾かしていることは肝に銘じる必要があると思った。(深)


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