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「ドンロー主義」で揺れる中南米=トランプ政権の勢力圏再構築

2026年1月10日

万華鏡2
「メキシコ湾を米国湾に改名する」と刺繍された帽子をかぶるドナルド・トランプ大統領(Foto: Daniel Torok/ Casa Branca/ Fotos Publicas)

トランプ米大統領は、中国やロシアの中南米への影響力拡大に対抗するため、「ドンロー主義」と呼ばれる新たな外交方針を打ち出し、西半球における米国の主導権回復を図っている。中南米は戦略、安全保障、経済、エネルギーの各面で重要性が高く、米国は同地域への関与を強める姿勢を鮮明にしている。2025年12月28日付BBCブラジルなど(1)(2)(3)が報じた。

ドンロー主義は、第5代米大統領ジェームズ・モンロー(在任1817~25年)が提唱した「モンロー主義」を現代的に再解釈したものとされる。欧州列強の介入を排し、米大陸を勢力圏とする考え方を、トランプ氏自身の名前を冠して再構築した。中南米を米国の「裏庭」と位置づけ、支配的地位の維持・強化を目指す点が特徴だ。

トランプ氏にとって中南米は、国内問題とも密接に結びつく地域でもある。違法移民問題では、米国内に住む移民の約半数が中南米出身者で、特にメキシコとの国境問題が大きな政治課題となっている。麻薬問題も深刻で、米国で消費されるコカインの多くがコロンビア、ペルー、ボリビアなどから流入しているとされる。

ドンロー主義の下、米国は外交政策を通じて中南米市場での競争環境を調整し、米企業が優位に立てる体制づくりを進めている。貿易協定では米企業に有利な条件を重視し、特にエネルギーやインフラ関連分野で、米企業が主導的役割を担うよう働きかけている。契約面でも米企業が優先されるよう、政府が後押ししている。

同時に、米国は政治姿勢によって各国への対応を明確に分けている。親米的な政権には経済支援を強化し、反米的な政権には制裁や圧力を加える方針だ。影響力の維持・拡大のため、軍事的、外交的手段の活用も辞さない構えである。

具体例として、アルゼンチンのミレイ政権には25年10月、約200億ドルの金融支援が実施された。エルサルバドルのブケレ政権は、米国から追放されたベネズエラ難民の受け入れに応じた見返りとして、米国の渡航警告解除という利益を得た。米国は協力的な政権に対し、目に見える形で報酬を与えている。

一方、反米的な政府には厳しい対応が取られている。ベネズエラでは25年9月以降、米軍による制裁措置が強化され、今年1月にはマドゥロ大統領が拘束された。コロンビアでは、ペトロ大統領が米国主導の麻薬取締作戦に反対したことを理由に、麻薬取引容疑をかけられるなど、圧力が強まっている。

ブラジルは、ドンロー主義における最も微妙な位置づけにある国の一つとされる。25年7月、米国はブラジルに対し、50%の関税と制裁を科し、盟友であるボルソナロ前大統領へのクーデター未遂容疑の訴追停止を求めた。しかし、ブラジル最高裁はこれに屈せず、ボルソナロ氏に禁錮27年の判決を言い渡した。ルーラ大統領は米国の圧力に強く反発し、結果的に国内支持率を高める逆効果となった。

その後、トランプ氏は方針を転換し、ルーラ氏との会談で「ブラジルとの関係を重視する」と発言。関税撤回に向けた交渉に入った。自国の利益を最優先しながらも、状況に応じて柔軟に修正を行う点も、ドンロー主義の特徴といえる。

サンパウロ州のIbmec大学で国際関係学と経済学を教えるアレシャンドレ・ピレス氏は、米国の真の狙いは中南米における中国の影響力を削ぐことにあると指摘する。中国との経済的結びつきを強める動きを抑制し、「地域内で同盟を形成・拡大する」戦略を進めているという。

米国は、過去数十年間にわたり、中国やロシアの中南米進出に十分な対応を取らなかったことを「戦略的誤り」と位置づけている。西半球外の競争相手による関与が米国経済に悪影響を及ぼしていると警告し、地域内での優位性確立を急ぐ構えだ。

こうした米国の動きは、中南米各国の外交・経済戦略に大きな影響を与えつつある。大国間競争のはざまで、各国が難しい選択を迫られる局面が、今後さらに増える可能性がある。


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