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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(331)

2026年1月30日


 状況がいくらか落ち着いてから、その負債を早く減らしてくれ、他の部門に迷惑がかかっているから…と、担当理事にも伝え、役員会でも何度か話していた。が、実行されなかった。

 そこで、八一年の八月の月間決算で、黒字が出たので、それを組合の会計へ移すよう措置した。

 ほかの生産物のプーリングの場合も、黒字が出ると、そうして、後で、そのプーリングの組合員代表に報告していた。それで何の問題も生じなかったので、組合員は判ってくれていると思っていた。

 この時の食鶏部門の場合、別に重要な仕事があったため、報告を遅らせていた。そこに落ち度があったことは認める」

 しかし、その無断移転を知った食鶏組合員の池田之彦が、これを鋭く問題化した。池田は組合の監事も務めていた。

 この一件は、数カ月もめ続けた後、結局、十二月に至り運営審議会に持ち込まれた。ここで解任動議が出されたのである。

 コチア産組の偉大な建設者の息子を解任するという余りにも深刻な議題を取り上げた会議は、朝始まり夜遅くまで続いた。

 解任案は賛否同数であったが、最後に反対派の一人が賛成派に回り、成立した。

 なお、コチアでは数年前、経営組織を改革、それまでの「理事会」を「運営審議会」と「執行理事会」に分離していた。

 それぞれ名称通りの職務を担当していた。

 審議会のメンバーは総会で選出され、非常勤であった。役員は会長のみで、互選され、井上ゼルヴァジオ忠志が務めていた。

 理事会のメンバーは、審議役の中から互選で、三役が選出された。三役は理事長=井上、副理事長=小川安男、専務理事=下元ケイロウという構成になっていた。他の理事は三役が指名していた。

 こちらは全員常勤で審議役を兼任していた。

 解任は、専務理事職を指す。

 (前章第327回のケイロウ談話の中に「次の理事選挙では、私は当選したけれどビリだった」という部分があるが、これは、右の審議役の選挙の間違いである)

 その審議会の決定に関して、ケイロウは、こう主張する。

 「報告を怠った、というだけのことで、専務を解任するとは非常識。

 それと、プーリングの黒字を組合へ移すことは、会長と小川さんに話してあった。

 当時、二人と私は、毎朝七時半から打ち合わせ会議を開いていた。その席上、話した。 

 問題の審議会には、私は自分のことが議題であるので欠席していた。が、その場で、会長が皆に、その『話してあった』ことを伝えてくれると思っていたが、そうしてくれなかった。

 解任の動議が出るかもしれぬことも、事前に情報が入っていたので、その場合は、改めて私を呼んで、私の言い分を聞く機会をつくってくれ、と会長に頼んでおいた。

 が、それもせずに、解任という結論を出してしまった。

 それと、会長は『解任ということになったら、自分と小川さんも辞表を出す』と言っていたが、出さなかった。

 翌日、私は二人を前に、机を叩いて怒った」 

 次に、日毎新聞に付記されている組合内部に存在したというケイロウに対する強い反感であるが。──

 これは、ケイロウがやった大合理化の強引さや彼の傲慢な言動への怒りのことである。

 ケイロウに対しては「専横」「自信過剰」「独善的」「従業員のミスは容赦なく叱責」「同僚にも峻烈」「会長すら差し置く振舞いも」…といった批判の声が上がっており、反感の度は年々高まっていたという。

 ケイロウによれば、

 「強引にならざるを得ない酷い事情が、組合経営にはあった。それは、今でも口にしたくないほどのことだった」

 という。

 筆者は、この解任に関して一九九三年──この時点では相談役に退いていた──ゼルヴァジオに、言い分を訊いた。以下は、その答えの要旨である。

 「ケイロウについては、彼の専務一期目の時点で、皆の意見として、今期限りで辞めさせようということになった。

 ともかく独断専行が多かった。例えば各業務部門には担当理事が居るのに、そこのフンショナリオを直接呼びつけてクビにする。ために担当理事からは苦情が出る、というような具合で…。

 結局、ワシが皆に頼んで、専務は続けさせることになったンだが…。

 プーリングの金というものは、組合員の金であって、組合の金ではない。だから専務といえども絶対手をつけてはならぬ性格のものなのだ。

 健吉さんの時代に、プーリングの金に手をつけたというので、二人の理事の首が飛んだことがある。それ以来、神聖視されているのだ、プーリングの金は。

 食鶏部門のプーリングの金を、組合の会計へ移すというようなことは、ケイロウからは聞かなかった。ワシと小川さんは知らなかった。(つづく)


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