「マラドーナは殺された?」=担当医ら7人の裁判開始

1979年、エル・グラフィコ誌の企画で対談したマラドーナ(左)とペレ(右)(Foto: Ricardo Alfieri, via Wikimedia Commons)
1979年、エル・グラフィコ誌の企画で対談したマラドーナ(左)とペレ(右)(Foto: Ricardo Alfieri, via Wikimedia Commons)

 サッカー界の至宝ディエゴ・マラドーナの死に関する裁判が、アルゼンチンで11日に開始された。マラドーナは2020年11月、60歳の時に自宅で死去し、死因は心不全とされている。だが検察は、彼の最期の数日間を担当した医療専門家7人が、死亡の可能性を認識しながら適切な処置を怠ったと主張し、「未必の故意による殺人罪」で起訴したと同日付のカルタ・カピタルなど(1)(2)が報じている。
 「未必の故意による殺人罪」とは、殺意が明確でない状況でも、相手に死が及ぶ認識を持ち、その結果相手が亡くなった場合に成立する殺人罪だ。裁判は7月まで続く予定で、証人として親族や医療専門家、ジャーナリスト、友人など120人が出廷する見込みだと報じられている。
 被告人リストには、マラドーナの主治医で神経外科医のレオポルド・ルケ氏をはじめ、臨床医、精神科医、心理学者、健康管理指導者、看護コーディネーター、看護師が含まれる。8人目の被告である看護師は陪審員裁判を求めており、7月から別の裁判で審理される。
 被告人らに対しては合計5件の告発が行われており、そのうち4件はマラドーナの5人の実子から、残り1件は同氏の姉妹らから提出された。検察側はマラドーナが死に至った過失を示す証拠を挙げており、もし有罪となれば刑期は8〜25年に及ぶ。
 マラドーナ側の弁護士であるマリオ・バウドリ氏は「マラドーナがどのように騙され、死を迎えることになったのかを示す多くの証拠がある。偽造署名や改ざんされたカルテなど、有罪判決を下すには十分だ」と述べている。
 マラドーナは硬膜下血腫の除去手術を受けた後、入院を続けることを望まなかったため、医療チームは自宅療養を認めた。だが彼は腎臓、肝臓、心臓、神経系の問題に加え、薬物依存症にも苦しんでおり、必要な医療設備が整っていない自宅に戻されたことが、検察側によって「不適切な医療ケア」とされた。検察は被告人らの行動が医療基準に従っていなかったと指摘している。
 検察は被告人らが自らの不正行為を認識し、マラドーナが死亡することを予見していたこと、逮捕される可能性を理解していたこと、カルテを改ざんして証拠を隠そうとしたことなどを告発している。
 「彼は死ぬ」「最悪の結末になる」「病歴を操作しよう」「刑務所に入ることになるかも」「怖い」など、被告人らの間で交わされたメッセージや音声が確たる証拠として残っており、マラドーナの健康は二の次にされ、金銭的な利益が優先されていたことが明らかになっている。被告たちはマラドーナを家族から引き離すことで職と収入を守ろうとしていたと、検察は訴えている。
 マラドーナの毒物検査結果ではアルコールや違法薬物は検出されなかったが、音声メッセージには看護師らが薬物中毒者特有の行動をなくすために定期的にアルコールや大麻を与えていたことが記録されている。
 2021年には、司法により設立された22人の医療専門家からなる委員会が、マラドーナへのケアは「不適切、欠陥、無謀」であり、その死は避けられた可能性があるとし、「12時間の苦痛の後に放置された」と結論づけた。
 被告らは、過失はなかったと否認しており、ルケ医師は公の場でマラドーナは「難しい患者」であり、医療指示に従わなかったと説明。マラドーナの死は予期せぬ突然のもので、苦しむことなく死に至ったと主張した。
 この裁判の終了後、マラドーナの遺体は個人墓地から、ブエノスアイレスの中心に今年オープン予定の霊廟「M10メモリアル」に移される予定だ。

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