飢えている人はいない?=実態を知らぬ為政者の姿

ボルソナロ大統領が8月26日、ジョヴェン・パン局のインタビューで「ブラジルではパン屋の入り口でパンを乞う人の姿を見かけない」と語った後、そんな事はないと反論する報道が続いた。
大統領の発言は、大統領候補の1人のシモネ・テベテ上議が「ブラジルでは食に窮し、飢えている人が3300万人いる」と語った事を受けたものだ。上議の発言について訊かれた大統領は、「バカな事を言う上議だ。パン屋の入り口でパンを乞う人を見た事がある人はいるかい? 君だって見た事がないだろう」と答えた。
だが、コロナ禍で失業者が増えたり、家計を支える人が倒れたりした事で、食に窮する人が増えた事は繰り返し報じられている。
8月27日付Extraでは、リオ市中央部に住む男性が毎朝パン屋でパンをもらい、店が出すゴミの中から食べ物を探している事や、同様の生活をしている人は1人だけではない事が報じられ、8月30日付G1サイトなども、大統領がインタビューを受けた場所から500メートル足らずのパン屋ではパンを乞う人が絶えない事や、レストランやバールでも「食べ物を買う金がない」と言って食べ物を乞う路上生活者や建設現場の作業員が引きも切らない事を報じている。
コロナ禍に伴う緊急支援金の支給や生活扶助の「アウシリオ・ブラジル」増額によっても腹を満たせない人が大勢いる事はこれらの事からも明らかだ。
一連の出来事を、政界に入って久しい大統領が庶民の生活と乖離した姿と取るのが正しいのか、再選を目指す中で貧困対策が機能している事を強調しようとしたのかは不明だ。
ある支持率調査では、生活が安定している人のボルソナロ大統領支持率がルーラ氏より高いことがわかっている。だが、貧困層では依然としてルーラ支持者が多い。アウシリオ・ブラジルの支給額増額後も支持率に大きな差が生じていない事は、大統領が食にさえ窮している人達の心を掴みきれていない証拠だと思える。
一次投票までほぼ1カ月。コロナ禍で社会格差が広がったといわれる中、教育や保健衛生も含めた諸問題で庶民の実態を知り、それに即した政策をアピールできるかが、票の行方を左右する。(み)