小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=1
第一章
革 命
リオ・デ・ジャネイロ港は、深い霧に包まれていた。世界美港の三指に数えられるその市街に、船客たちは逸速く上陸許可を希んだが、日本の移民船《らぷらた丸》は湾内に投錨したままだった。
この日、ブラジルは護憲革命の渦中にあった。暫定中央集権の独裁者ジェツーリオ・ヴァルガスの秕政(ひせい)に抗して、サンパウロ州義勇軍の率いる連合軍が政府打倒に蜂起した、いわゆる一九三二事変である。攻防の伯仲する戦塵に包まれた港湾管理局は、移民船が発信する、入港、着岸要請の無電をキャッチしないのである。
朝も十時近くなると、湾内を濃く覆っていた霧が薄らぎ...
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