《記者コラム》ポ語とブラジル音楽の関係を探る=ポルトガル語博物館で展示会

サンパウロ市のポルトガル語博物館で14日から来年3月まで、「この私達の歌(Essa Nossa Canção)」と題する展示会が開催されている。
展示会を案内する13日付アジェンシア・ブラジルの記事(1)は書き出しに、「こんにちは、元気?」「あなたの人生のことを知りたいの」「お元気ですか?」といった有名な歌の一節を用い、今回の展示会はポルトガル語とブラジルの音楽の関係を探るものと記している。
言語学をかじった者としては、記事中の「ポルトガル語と音楽との非常に深いつながりは、私達のアイデンティティだけでなく、集団としての記憶の構築にも関与する」という言葉も気になった。
言葉も音楽も、幼い時から慣れ親しみ、その人の感性などを作り出す。荒々しい言葉ばかり聞いて育てば気性も荒くなる可能性があるし、穏やかな、慰めに満ちた曲は荒んだ心を和やかにしてくれるだろう。
『思い出のメロディー』という本で、昭和20年10月封切りの映画の主題歌「リンゴの唄」が「人々の心を打ち、明るさと希望を与え、爆発的人気を呼んだ」と評されており、「さもありなん」とうなずいたことも思い出す。
先の記事には、歌の多様性や歌詞が社会階級を超えて人々を一つにし、個人と集団を結び付けたりするとある。様々な曲に織り込まれた詩が互いに対話を始めると、新たで変革的な作品が生まれて来るともある。
記事中の「歌は呼吸」「歌は酸素を供給し、ブラジル人のアイデンティティと多くの国が集まったブラジル人の多様性の特徴を統合し、ブラジル全土を一つにする息」との表現も新しい視点を与えてくれた。展示会の企画・責任者の一人は、「スピーチは声帯によって切り取られた継続的な息であり呼吸」「歌は音楽のリズムによって強化された呼吸」とも述べている。
記事中には、歌は「博学な人と大衆的な人、古代と最も現代的な人々を結びつける」との表現もある。「曲を通してブラジルの歴史や物語を伝えることができ、何らかの形でブラジルに共感し、アイデンティティを見出す」との言葉からは、日本人としての心を失わないために日本の曲を歌い、教えたいと語る人々がいることや、歌が当時の人々の感性や世相を反映していることも思い出す。

先の企画・責任者は、会全体は学芸員などの手も借りて「感覚的な体験となるようにデザインされているが、曲の歴史についての解説ではなく、感じ、楽しむもの」とも述べている。
残念ながら週末は予定が入っていて展示会に行けなかったが、イパネマの娘など、ブラジル人にお馴染みの54曲の歌詞を特設のスピーカーを通して聴き、シコ・ブアルキ、ジョアン・ジルベルト、マリリア・メンドンサといった音楽家達の感性に触れながらの言葉と歌の旅ができる機会。是非、お楽しみあれ。(み)