小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=37
「わたしお父ちゃんに話すわ。マラリアの治療は、マラリア蚊のいない地方に移るのが何よりの養生だと言うし、それをお父ちゃんが賛成してくれたら、夜逃げの方法は岡野さんに訊くことにするわ」
「夜逃げが発覚したら、監督から撃たれるって話じゃない」
「絶対に見つからぬように実行するのよ」
母親と娘は毎日の仕事の合間にそんな話を繰り返した。具体案は何一つ無いし、田倉に話すきっかけもなかなか見出せなかった。
雨降りの日が続いた。そして、南国で初めての正月が巡ってきた。田倉が夢に願った餅も雑煮も調達することはできなかった。
裏庭に出て顔を洗ったはぎは、枯れ枝のように細...
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