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偉人の顔より〝ピカチュウ〟⁉︎=ブラジル社会に根づく世代間文化

2026年2月28日

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ポケットモンスター30周年記念ロゴ(Foto: Divulgação/Nintendo)

 誕生から30年――。日本が生んだ「ポケットモンスター(ポケモン)」が、地球の反対側ブラジルの地で、類いまれな文化的成熟を見せている。歴史上の偉人の顔は知らずとも、ピカチュウやリザードンの姿を知らぬ者はいない。アニメやゲーム、カードといった多様な入り口を通じて世代の壁を溶かし、いまやブラジル社会を繋ぐ共通言語へと昇華している。

 27日朝のCBNラジオ(1)でアナウンサーは、この話題を取り上げる中で、「偉人マリオ・デ・アンドラーデの名前は知っていても、写真を見せてどの顔かを当ててもらうのは難しい。でもピカチュなら、名前と顔が一致しない人を探す方が難しい」と自嘲的に語った。

 2月27日の「ポケモン・デイ(記念日)」に合わせ、サンパウロ市リベルダーデ区では3日間にわたる祝祭が幕を開けた。(2)トレーディングカードゲーム(TCG)の対戦や交換に興じる親子連れらの熱気は、この日本発の物語がいかにしてブラジル人の心に深く根を下ろしたかを雄弁に物語っていた。

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ピカチュウの衣装を身につけた子ども。こうした姿は、イベントに限らず街中でもしばしば見られる。(Foto: Instagram @pokemonbrasil)

 ポケモンの物語は1996年に始まった。(3)制作者が幼少期に野山で没頭した昆虫採集の記憶を、デジタルな「収集・交換・対戦」の仕組みへと転換。携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」の通信機能という制約を、かえって人と人を結びつける独自の表現へと昇華させた。

 同年、日本で産声を上げた初代ソフト「赤・緑」は瞬く間に世界を席巻。アニメ化や海外展開を経て、その知名度は国境を越えた。シリーズはその後も進化を止めず、2025年には次世代機向け最新作の投入が控えるなど、その歩みは今なお現在進行形だ。

 初代ソフトの成功は、単なるゲームの枠を超えた広大な「メディアミックス」の草原を切り拓いた。アニメ、映画、TCG、そして多彩な関連玩具。それぞれの媒体が共鳴し合うことで、ポケモンは単一の作品であることをやめ、重層的な世界観を保持する巨大な知財へと脱皮した。

 こうして築かれた帝国は、30年間で総額1470億ドル規模の経済圏へと膨張した。2025年のライセンス収入だけでも120億ドルに達し、高級ブランドから日用品に至るまで、その意匠は人々の生活の隅々にまで浸透している。

 ソフトの累計販売数は約5億本、TCGの流通は約90カ国に及ぶ。消費者がこの世界に触れる接点は、今この瞬間も世代と国境を越えて増殖し続けている。

 ブラジルでの熱狂は、とりわけ特筆に値する。1999年のアニメ放送開始とともに、ポケモンはブラジルの子供たちにとって「共通の原風景」となった。1千種を超える全個体に熱烈な支持者が存在するという調査結果は、その愛の深さを証左している。かつてゲームボーイを握りしめた少年少女が、今では自らの子にポケモンの魅力を説く。親子二世代が同じ「推し」を共有する文化は、ブラジル社会に幸福な循環をもたらしている。

 中でもTCGの隆盛は凄まじい。導入から20年以上を経ても市場は膨らみ続け、各地のコミュニティは初心者から熟練者までを等しく受け入れる。希少カードが投機的な価値を持ち、ブラジルでも数万枚を保持する愛好家が、市場に厚みを与えている。

 2016年に登場した「ポケモンGO」は、物語をスマートフォンを通じて街路へと連れ出した。配信から10年、公園や街角で端末を手に集うプレーヤーの姿は、もはやブラジルの日常風景の一部だ。見知らぬ者同士が協力して戦う仕組みは、都市の中に新たな公共性を創出している。

 30周年の節目に際し、サンパウロの専門店では、初心者に手ほどきをする光景や、限定品を求めて集うファンたちの笑顔が溢れている。各界の著名人が自身の「相棒」を語る姿も、そのブランドが持つ普遍的な魅力を浮き彫りにした。ブラジルでポケモンは、30年の歳月をかけて人々の生活に溶け込み、世代を繋ぎ、社会を彩る「共有の財産」となった。


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