小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=40
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その週末、ベネジッタ親子は遠い友人を訪ねて行った。彼女たちは外出すると、帰りはたいてい真夜中となる。律子は、早速その情報を岡野に伝えた。逃避行に絶好のチャンスだ、と岡野は馬車を出すことを約束してくれた。
田倉の家から裏の森林までは、草原が広がっている。その中に一筋の径が通じていた。薪拾いや小鳥の罠を仕掛けに行く細径だ。ここから森林を通り抜けて、耕地と隣植民地との境界まで荷物を運ばねばならない。荷物は、皆して一度に運び出さず、一人の姿が先方に消えるのを見計らって、次の者が発つ。万一、誰かに出遭っても一人の荷物なら不審がることもないだろう。
律子は瀬戸...
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