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《記者コラム》ブラ拓移住地が残した歴史的痕跡=国勢調査で日系人激減の謎?!

2024年1月9日

2022年国勢調査で黄色人種であると申告した人々に、国勢調査員が確認のために読み上げたメッセージ(IBGE)
2022年国勢調査で黄色人種であると申告した人々に、国勢調査員が確認のために読み上げたメッセージ(IBGE)

10年余りで6割も減った黄色人種人口?!

 「日系人が激減?!」――という不思議な報道が昨年末ブラジルメディアで行われた。ブラジル地理統計院による2022年国勢調査で「Os amarelos(黄色人種)」と自己申告した人が約85万130人(全人口の0・4%)だった。だが、2010年の調査では208万4288人(1・1%)もいたので、なんと6割も激減したことになる。
 23年12月22日付G1サイト《2022年国勢調査:ブラジルは初めて、白人よりも褐色であると自己宣言した人が上回った》(1)という記事には、22日にIBGEが発表したデータによれば、黒人と先住民族の人口が増加し、その分、白人と黄色と申告する人が減ったとある。
 一見すると、85万人という数字は1991年当時の数字に等しく、この30年間は何だったのかという議論だ。
 だが、答えは簡単だ。以前から邦字紙が問題にしてきた統計手法の問題だ。国政調査の質問項目には「黄色」と「先住民族」が別々に設けられているのに、後者の多くが「黄色」と自己申告してきた。
 ところが今回、IBGEは「黄色」と返答した人に対し、調査員が「黄色は日本人、韓国人、中国人などの東洋人種のことです。あなたはそう自己認識しますか?」という確認項目を一つ追加した。そのために黄色が激減し、その分、先住民族が増えた。
 例えば写真にあるように、2008年の日本移民百周年の当時、IBGEが出版した『resistência & integração 100 anos de imigração japonesa no Brasil』には、バイア州の日系人が7万8449人というようなありえない数字を発表していた。リオ州やパラー州よりも多い数字で、日系社会的にはあり得ない数字だった。
 「どう考えても先住民族と混同している」と首をかしげる事態だったのが、ようやく今回IBGEが修正したから減ったということだ。

IBGEが2008年に出版した『resistência & integração 100 anos de imigração japonesa no Brasil』にはバイア州の日系人が7万8449人と記されている
IBGEが2008年に出版した『resistência & integração 100 anos de imigração japonesa no Brasil』にはバイア州の日系人が7万8449人と記されている

先住民族の多くが「黄色」と自己申告?

 そもそも同調査の人種区別(肌色)は「白人」「黒」「黄色」「褐色」「先住民族」の5種類だ。だがブラジルでは従来、調査時に「黄色」と「先住民族」の区別を強調せず、多くの先住民族が「黄色」と自己申告してきた。
 今回の調査で、自分のことを東洋系と認識している国民は85万人しかないことが分かった。今までブラジルの日系人口を200万人としてきたが、今回のIBGE調査受けてどうするのか、日系社会の共通見解を固める必要があるだろう。
 この85万人は日系だけでなく、韓国系、中国系などアジア系全体を含んだ数字であり、日系だけを見たら65万人とか70万人の可能性もある。仮に70万人だとしても、在日ブラジル人21万人を加えても91万人にしかならない。
 ただし、現在は非日系人と結婚している人も多く、そのような配偶者も「日系人」という枠に含めるのであれば、200万人近い数字もありえるかもしれない。事実、日本側の21万人は日系本人と配偶者を合わせたブラジル国籍者の数だ。ブラジル側もそのような数え方にすれば、自己申告で日系70万人だとしても、その非日系配偶者や混血の子供を入れて日系社会とすれば200万人でもおかしくない。
 いずれにせよ、IBGE調査によれば「日本人の血筋を受け継いでいる」と今現在で自己認識している人は、70万人前後しかいないようだ。
 同調査で日系人と自己申告した人が一人もいなかったのは5570自治体のうち、わずか575のみ。つまり、ブラジル全国の9割の自治体には日系人が住んでいる。

サンパウロ州とパラナ州に集中する日系集住都市

 23年12月22日付G1サイト《アサイーはブラジル最大の日系密集地》(2)、同23日付G1サイト《2022年国勢調査:サンパウロ州内陸部の都市が国内で黄色人人口が最も多い10都市ランキングに登場》(3)に掲載された「黄色人種が最も多い10自治体」リストには、感慨深いものがあった。
 堂々の1位はパラナ州アサイー市で、人口1万3797人のうち、なんと11・5%が日系人となっている。2位はサンパウロ州バストス市で人口2万1503人中の10・3%が日系人だ。3位はパラナ州ウライ市で1万406人中の5・9%。
 4位はパラナ州サンセバスチアン・ダ・アモレイラ市で8063人中の4・8%。5位はサンパウロ州ペレイラ・バレット市で2万4095人中の4・2%、6位はパラナ州ノヴァ・アメリカ・ダ・コリーナ市で3280人中の3・8%、7位はサンパウロ州モジ・ダス・クルーゼス市で45万1505人中の3・7%。
 8位はサンパウロ州ミランドポリス市で2万7983人中の3・7%、9位はサンパウロ州ビリチバ・ミリン市で2万9683人中の3・6%、10位はサンパウロ州グアタパラ市の7320人中の3・5%だ。

黄色人種の密度が最も高い10自治体
黄色人種の密度が最も高い10自治体

ブラ拓4大移住地が残した歴史的痕跡

 ここから分かることは、戦前に日本人入植を進めた日本政府系機関「ブラジル拓殖組合」が開拓した「ブラ拓4大移住地」という移民史の影響が、現在まで色濃く残っていることだ。
 1位のアサイーは今から約90年前、1932年にブラ拓によって作られた三つ目の移住地トレス・バラスだ。日本語では旭移住地と呼ばれ、戦争中に敵性国である国の言葉を使った名称では問題があるということでブラジル風にも聞こえる「アサイー(Assaí)」に変更した。大戦中の1944年1月28日に市制が敷かれている。
 2008年の日本移民百周年を記念して当時のブラジル人市長が日本式の「旭城」を建築するなど、今でも日系色が強いことで有名な地方都市だ。旭城は4階建てで石垣も含めた高さは約25メートル。城内にはエレベーターを設置。パラナ州が兵庫県と姉妹都市であることから姫路城を模して城壁を白にし、城に続く階段には日系人の存在を象徴する赤鳥居が2基建てられている。
 2位のバストスもまさに1928年に「最初のブラ拓移住地」として建設された場所だ。いまでも市と日系団体が手を組んで「卵祭り」を実施するなど、日系色が強いことで知られる。5位のペレイラ・バレットも、戦前にチエテ移住地と呼ばれた二つ目のブラ拓移住地だ。
 8位のミランドポリスは、戦前にブラジル力行会が創立したアリアンサ移住地がある町だ。NHKスペシャルでも扱われた有名な農業共同体・弓場農場がそこにある。ここは、のちに経営がブラ拓に移管され「4大移住地」の一つとして呼ばれている。
 アサイーから北に27キロの隣町に立地するウライも3位に入っており、満杯になったアサイーからもっと安い農地を求めてあふれ出すように移動した農家などが大挙して入植したと推測される。
 4位のサンセバチアン・デ・アモエイラ市もアサイーから23キロ南東に位置しており、アサイー入植者が新しい土地を求めて移動していった場所だ。
 つまり、1位、2位、4位は「大アサイー圏」ともいえる北パラナの日系中核地域であり、その若者の多くがやはり近隣にあるパラナ州第2の大都市ロンドリーナ、州都クリチバなどに移り住んでいったと推測される。
 この10位までの地域が「東洋系」というより「日系」と言えるのは、ブラ拓移住地から始まった都市であることに加え、「農業移民から始まったのは日本移民だけ」という歴史的な事実もある。中国系や韓国系は70年代以降、基本的に最初からサンパウロ市などの大都市部に会社員や自営業者として住み始めた。だから、10位までにあるような農村部にはほとんどいない。

日系人総数で圧倒的に多いのは大サンパウロ市都市圏

 1962年に海外移住事業団(現JICA)が創設したグアタパラ移住地が10位に入っている点も興味深い。2022年に60周年を迎えた、ブラジルでは数少ない戦後移住地だ。現在も80家族300人ほどが住んでおり、同文協に属する日系家族は主に養鶏を営んでいる。低湿地の広がる地域のためハスやレンコンの栽培でも有名だ。
 さらにモジ・ダス・クルーゼス市の3・7%を日系人が占めていることも注目点だ。このリストの大半が1万~3万人の小さな町ばかりなのに、モジ市だけは堂々の45万人都市だからだ。その大都市の3・7%ということは、日系人だけで1万6650人も集まっている。モジで秋祭りなどが盛大に開催される裏にはそれだけの日系人の集積があるということだ。
 9位のサンパウロ州ビリチバ・ミリン市はモジ市のすぐ奥に立地しており、モジからより安い農地を求めて移った人なども多かった地域と推測される。
 そもそもなぜそんなにモジ市に日系人が多いかといえば、戦前にノロエステ、パウリスタ、モジアナ、奥ソロなどサンパウロ州奥地に入った移民には、農業の重労働に耐える中で栄養失調や感染症で健康を害した人が多く、地方巡回診療をしていた医療法人「在ブラジル日本人同仁会」医師らが、そちらへの転居を進めて回ったからだ。
 細江静男医師らが巡回先で、「地方で一発当てるような大規模な綿やジャガイモ、資本が必要なコーヒーなどで健康を害するより、モジやスザノのような標高が高く、風土病が少ない健康地へ移転し、サンパウロ市という大市場向けに野菜などを作る近郊農家になったらどうか。儲けは少ないが健康には良く、子供たちの教育の機会も増える」と説得する中で、戦後に急速にサンパウロ市近郊に日系農家が増えたという流れがある。
 だから、モジやビリチバ・ミリン、スザノ、ABCD地区など大サンパウロ都市圏には日系人が多い。
 その流れから市町村別の日系総数という意味では「サンパウロ市の日系人口は2・08%」という数字につながる。市人口1145万人中の23万8160人を黄色人種が占める。中国系・韓国系の人口を抜いても20万人近くはいる。一都市における総数では南米大陸でダントツ1位なのは間違いないだろう。
 大サンパウロ都市圏で考えたらその2倍以上は軽くいる。であれば、在ブラジル全日系人の約半分が大サンパウロ都市圏と考えてもよさそうだ。

高齢化する地方日系人集住地域という課題

アサイー市が誇る旭城
アサイー市が誇る旭城

 気になる点としては、23年12月22日付フォーリャ紙《ブラジル全国で最も黄色人種が集まる町アサイー》(4)に、次のような統計が示されていた。同市の高齢化指数の平均は96・11。この指数は、14歳までの人口に対する65歳以上の人口比率で算出される。だから、指数が高いほど高齢化が進んでいることになる。
 これを人種別に見ると、同市で高齢化指数が最も高いのは黄色人種で256・5、次いで黒人(108・3)、白人(98・05)。高齢化率が最も低いのは褐色人種(60・60)と先住民族(35・55)だ。
 それだけ若い日系人がロンドリーナ、マリンガ、クリチバなどの大都市に大学進学・就職して帰ってこず、極端に高齢化が進んでいるという現実を示しているようだ。これはサンパウロ州の地方都市にも共通した現象であり、子孫がみなサンパウロ市へ行き地方に戻らない現実が見られる。日系人集住地方都市の現実といえる。
 同調査結果からどんな「日系社会の課題」を読み取るか。まずは「日系人口200万人」をそのまま使うならどう理由付けするのか、もし減らすならどの数字にするのか、などしっかりと考え、日系社会全体の共通認識にしていく必要がある。(深)

(1)https://g1.globo.com/economia/censo/noticia/2023/12/22/censo-2022-cor-ou-raca.ghtml

(2)https://g1.globo.com/pr/norte-noroeste/noticia/2023/12/22/censo-2022-cidade-mais-amarela-do-brasil-assai-pr-tem-castelo-em-homenagem-a-imigracao-japonesa.ghtml

(3)https://g1.globo.com/sp/sao-jose-do-rio-preto-aracatuba/noticia/2023/12/23/censo-2022-cidades-do-interior-de-sp-aparecem-no-ranking-das-10-com-maior-populacao-amarela-do-pais.ghtml

(4)https://www1.folha.uol.com.br/cotidiano/2023/12/assai-pr-e-a-cidade-com-maior-percentual-de-populacao-amarela-do-brasil.shtml


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