小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=84
隆夫はカフェランディアの地理に詳しいから、町の敗戦論者で農産物仲買商の楠野某を狙うように命ぜられ、山路と行動に移った。楠野の住宅は町外れにあり、その時刻、家族は夕食中だった。二人の刺客は息を凝らして家屋に近づいた。何故か犬は吠えなかった。
彼らは窓辺に忍び寄り、山路がガラス越しに家長の楠野に銃の照準を合わせて発砲した。動転した家族は奥へ逃げる者、テーブルの下に潜る者、つまづいて転ぶ娘、その娘を踏み越えて部屋に駈け込んだ男が猟銃らしいものを持ち出す動きが見てとれた。銃声を聞いた番犬がけたたましく吠え立てた。もはや二人は、次の行動に移る余裕をなくしていた。楠野が斃...
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