site.title

小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=86

2024年1月23日

律子の憂鬱
 
 荒っぽい独りよがりの手紙ではあったが、隆夫を取り巻く人びとの心境がある程度読めるものだった。情報不充分で身動きできなかった世相にあって、忠君愛国の精神をもてあましていた彼らにとって戦勝ニュースは、日頃の鬱憤を晴らしてくれる何よりの朗報だったのだ。同じ世代を生きてきた律子には理解のできる争いだった。彼女は、いつの間にかペンを執っていた。
 
隆夫様へ
 貴方の選んだ行動に対して、私はどうこう言う資格はありません。ただ、日本の勝敗は別としても、邦人社会に擾乱を惹きおこし、同胞が殺害されつつある事実は、何とも悲しいことです。
 隆夫さんが師と...
会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...