《記者コラム》ブルマジーニョ=ダム決壊から丸5年=今も進まぬ補償問題

1月25日はサンパウロ市民にとっては市政記念の祝祭日だが、ミナス・ジェライス州民にとっては、ブルマジーニョ市のValeのコレゴ・ド・フェイジョン鉱山の鉱滓ダム決壊事故の死者270人(胎児も入れれば272人)の命日だ。
事故発生は2019年1月25日だから、丸5年が過ぎたが、死者の内3人の遺体はまだ見つかっておらず、補償問題も難航している。
しかも、補償問題に関するニュースの一つ(1)によれば、2019年1月~2023年3月にミナス州の裁判所が下した319件の訴訟判決の内、75%は被災者側の主張に不利な判決で、Valeが控訴した裁判では補償金額が最大で80%も削減されていたという。
家族や親族を失った上、補償問題で裁判を起こさなければならない。やっと結審したと思ったら、相手が控訴し、補償額が削減される。遺族達の苦しみはいかばかりかと改めて考えさせられた。
一家の柱だった人達を失った家族や、家族が増えると待ち望んでいたのに妊婦と胎児を同時に失った家族、命こそとりとめたものの、雪崩下る鉱滓に飲み込まれるという悪夢の体験をした人、鉱滓が流れ込んだ川の流域に住み、生活の手段や安全な食生活などを奪われた人などが味わった苦しみや悲しみはいかほどか。
このような大災害では企業側が負担すべき補償金額も莫大なものになる。だが、補償額が80%も削減されたとか、個別補償の対象者を決める基準は当時の居住場所で、ブルマジーニョ市に住んでいた人ならば、高級コンドミニアムの住民まで補償の対象となるという話には、首を傾げる他はない。
理にかなわないことはしばしば起こるが、裁判所が人道に反すると思われる判決を出してきたという事実には、首を縦に振ってはならないと思う。その一方で、闘い続けることに疲れ、首を縦に振ることで、過去の記憶に区切りをつけようとした人もいたのかも知れないとも思わされた。
「お金で解決できない問題は多いし、生きていることが一番大切」という人もいる。ミナス州では今も、大雨による洪水などが頻発しており、ダム崩壊事故以外の理由で亡くなる人の中には、補償金さえ受け取れない人もいるだろう。
毎年この時期に同じようなコラムを書いていることに、読者に対して心苦しい部分がある。だが、あの事故やその前に起きたマリアナ市での鉱滓ダム崩壊事故後の防災対策や補償問題の遅れを踏まえ、その早期実施への社会的圧力は常に必要だと思わざるをえない。同種の事故の回避は、同様の苦しみや悲しみの再発を防ぎ、命や環境を守るための必須事項であり、望みであるはずだからだ。
22日付アジェンシア・ブラジル(2)によれば、22日にはサンパウロ市パウリスタ大通りで、事故から5年後も責任者達が罰せられていないことへの抗議集会も行われた。
今もトラウマに悩む方々や遺族の上に深い慰めと支えを祈ると共に、一刻も早い解決と再発防止策の徹底を望みたい。(み)