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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=113

2024年3月26日

 その後、訪日の機会が二度あり、田島家にも寄ったが、双方から千江子の話はでなかった。その頃、田島はかなり憔悴して、絵の具が身体に悪いんだが絵は止められない、と自嘲まがいに話していた。そして、別れた翌年に逝った。それ以来、矢野の故郷訪問の楽しみは半減したが、田島を悼むとき、つい千江子に思いを馳せて、電話を入れたのである。

 電車は、広島駅に着いた。プラットホームに、千江子と瓜二つの八重子が立っていた。最後に逢った頃の千江子の年齢に見える。
 矢野が初対面の挨拶をすると、
「あら、田島さんも一緒じゃなかったのですか」
 と八重子は怪訝な顔をした。
「電話で話せ...

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