site.title

小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=118

2024年4月6日

 私としては精一杯の看病であった。それ以上の取り越し苦労よりも、妻が常日頃欲しがっていた住宅を建て、たとえ一年でも自分の家に住ませてやるのが何よりの慰めになるのではあるまいか。そう思うと、私は急いで普請に取りかかった。病人をおいて仕事や建築にばかり熱中している、という非難の声もあったが、そういう煩瑣に取り巻かれながらも、とにかく住宅は完成し、病妻を二年間住ませてやることができたのだった。妻への最大の贈り物であったと思っている。
 今、この家に妻はいない。
「おかえり」の声もなく、ボソッと伸び上がった二階屋が、うつろに静まりかえっている。
 私は車を車庫に入れた...

会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...