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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=154

2024年6月12日

「信二さ~ん」
と、戸外で少女の声がした。さ~ん、とアクセントをつけて呼ぶのは、三軒隣に住む、幼馴染みの寺田良子だ。信二は雑誌を放り出し跳ね起きた。カンテラを窓に突き出すと、左の肩に籾袋を背負った良子が、泣き出しそうな顔で立っていた。
「秋ちゃんいる?」
 信二の妹である。秋子に用事なのに、何故信二を呼ぶのか、信二には良子の心が読めている。
「秋子は今、風呂だよ」
「あらそう。私、今バッタンに籾の入れ替えに行くんだけど、独りじゃ恐いの……」
「……ん、そうか」
「夕方入れ替えるのが遅れちゃって。籾は搗き過ぎると小米に割れてしまうとお母ちゃんは言うけど、...

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