中絶問題=ルーラ「狂気の沙汰」=中絶重罰法案に強い反発=一方で熱心な推進派も

【既報関連】12日に下院で緊急議題として承認された、強姦による妊娠の場合も含め、妊娠22週を超えた中絶の重罰化を定めた法案「1904/24号」は波紋を広げ、ルーラ大統領からも「狂気の沙汰」と批判されるに至るなど、強い反発を招いている。その一方で熱心に推進しようとする動きも見られている。
ヴェージャ誌(1)の報道によると、ルーラ大統領は15日、G7首脳会談で滞在中のイタリアで取材陣から1904号に関する意見を訊かれ、「しっかり追っていないから帰国して確認したい」としながらも、「私はかねてから中絶には反対ではある。だが、これは女性の健康の問題だ」とした後、「強姦された被害者が強姦した人物より刑が重いなど、狂気の沙汰だ。どう控えめに見ても狂っている」と呆れ、「誰かがそのような法案の提案をするとしたら、真面目な話、真剣には捉えられないはずだ」と、法案提出に対して信じられない様子を見せた。
この前日には大統領夫人のジャンジャ氏も、「女性の尊厳に対する脅威だ」と語っている。
連邦政府では13日にシーダ・ゴンサルヴェス女性相が、強姦被害者の6割が13歳以下の子供であること、強姦被害者の57%は黒人で事件の68%が家庭内で起こっているなどのデータを上げ、「子供は母親になるための存在ではない。子供は子供でなくてはならない」として、法案1904号に対する抗議声明文を出していた。(2)
ニジア・トリンダーデ保健相も15日、X(旧ツイッター)上で、「シーダ女性相の意見に同意する」とし、「私たちは、強姦被害に遭い、命の危機にさらされている少女達に対する統一医療保健システム(SUS)でのケアを保証する必要がある。それは1940年制定の刑法にも規定されていることだ」とし、「1904号は非人間的で擁護しようがないもの」として批判した(3)。
同法案は緊急議題承認の後、世論の反発が極めて強い。その影響で、福音派で知られる女性下議のレニルセ・ニコデモス氏(民主運動・MDB)のように、1904号法案に賛成した自身の署名を取り消すように申し出る人も出てきた(4)。
だが、元来、中絶に強い反発を示す宗教関係者の中には1904号を推進する声が強い。一例はカトリック系のブラジル全国司教会議(CNBB)で、同法案の承認を望む声明を出している(5)。
そして17日、上院での委員会の席上で、中絶を拒む胎児を一人演劇で表現する女性が現れ、物議を醸した。22週以上の中絶で国際的にも使用される「胎児心停止」を連邦医学審議会(CFM)が認めなかったことに関する委員会に呼ばれたのは、教員で歴史の語り部でもあるニェジャ・ジェナリという女性で、全身を使って胎児の苦しみを表現し、大声で叫ぶなどした(6)。
ロドリゴ・パシェコ上院議長(社会民主党・PSD)はこの女性の招集を認めておらず、この日の委員会に医学の専門家が呼ばれていなかったことにも不満を表明している(7)。
また、フォーリャ紙が17日に報じたところによると、報告官のソステネス・カヴァルカンテ下議(自由党・PL)による1904号の原案では、未成年の少女が22週を超えて中絶を行った場合、社会教育施設で21歳まで、または最長で3年入院させるとしているという(8)。
刑法の専門家は未成年者にも成人と同等の刑罰を定めていることに疑問を呈している。また、ブラジル弁護士協会(OAB)や司法界はこの法案は違憲、違法と判断しており、下院が承認した場合は最高裁に持ち込む姿勢も見せている。(9)(10)