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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=158

2024年6月21日

 信二は、汗臭い昨日の衣服を着けるのをためらった。しかし良子を見舞うために新しい物と着替えることは、良子を好いているように思われそうで気恥ずかしかった。家の者は洗濯の手間を省くために、たいてい四、五日は同じ作業着で就労していたのである。
「良子さん、どんな」
 信二は、鍬の柄に通して運んできた水樽を、家の入口に下ろして声をかけた。
「信二さんかい、まあまあ」
 寺田とめさんがハンカチで手を拭いながら出てきて、信二を良子の部屋に案内した。薄暗い部屋の片隅で良子は横になっていた。とめさんの石油ランプで照らされた良子の皮膚は、透きとおるほど白かった。髪の毛は赤く生...
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