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小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=29

2024年8月30日

 中でも飛び抜けて大家族の井上馬太郎を押えれば、十六人はまあ井上の考え通りに動くだろう。井上が慎重な性質で、あまり騒ぎを好まない筈だと運平は思っていた。
 それに、運平個人に反抗しようとしているのは西だけで、あとの人々にとって運平は交渉相手ではなく、〝通訳さん〟だった。
 彼がメシを喰い終ってぬるい白湯をのんでいるとき、
「入っていいですか」
 と入口で声がした。
 井上馬太郎の声だった。運平の顔にホッとした表情が浮んだ。

 …第一回の要求書がつきつけられたのは翌朝だった。
 仕事に行く前に長屋の前にかたまった一団の男たちの中から、西が進み出て紙切れを...

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