site.title

小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=46

2024年9月26日

 しかし、彼は結婚式を挙げようとしなかった。彼女に不満があった訳ではない。なぜか?と自問することがあった。外見はすっかり一農場の勤勉な副支配人になり切っていながら、心の中にはまだ見ぬ世界を広く訊ね歩きたい若者の夢が息づいていた。結婚することはその夢を断念することだった。家族を連れて異郷をさ迷う悲惨をイヤというほど見てきた運平には、〝夢が生きているかぎりはおいそれと結婚へ踏み切れないのだった。最近、びんに白髪が目立つようになったサルトリオが運平を食事に呼んだ。彼は晩婚だった。娘が三人いた。食事は彼女たちが腕によりをかけたイタリヤ料理だった。
 「私はまだ十年は働ける...

会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...