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小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=70

2024年10月31日

第六章

「おい、定一。餅を食え」運平は声をかけた。
少年はノロノロと顔をあげた。蒼白だった。大正五年(一九一六)の正月がきた。人々はとっておきの餅米をとり出して餅をついた。来るべき米の収穫に備えて、どの家でも臼は作ってあった。一かかえはどの木を両手びきの鋸で輪切りにして、胴に泥を塗ってから芯を焼いてくり抜いたものだ。餅米だけの餅をつく家はなかった。マンジョカ(タロイモ)などを混ぜて少しでも量をふやそうとした。開拓したあとにはヨモギやワラビが芽をだした。もう少したって新米がとれるようになったらヨモギモチが腹一杯食える。
 収容所の二つの小屋の回りで新年会が開かれ...

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