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小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=75

2024年11月7日

「彦平さんが……」
「えっ、マレッタか!」
彼女は無言で大きく頷いた。
小屋の中で彦平があの日の定一少年のように、唇を紫色に変色させてガタガタ震えている。
「彦平……!」
「兄さん」
「寒いのか?」
「うん、寒い。この世の中にこんな寒さがあるのかと思うほどだよ。体の芯まで凍えて、まるで背骨が氷でできているようだ」
彦平の言葉はガチガチと鳴る歯音にさえぎられて途切れ途切れにしか聞えない。
「今すぐ薬をやるから」
運平は慌しく大ビンの赤い封蝋にナイフを立てた。イサノは言った。
「この三日間というもの彦平さんは酷い熱でほとんど...

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