site.title

小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=81

2024年11月15日

 彼はそこに坐り込んでハンカチで鼻をかんだ。泣いても仕様がないと思いながら、涙がこぼれて鼻をつまらす。
 戸田と二人で運平は薬を配り、見舞いに一軒一軒廻った。何もしてやれない見舞いは苦しかった。運平にできることは一緒になって苦しむだけだ。そこに座り、石油のカンテラが消えていれば石油を注ぎ火を点してやり、ぐったりとした病人の手を握って力付けてやる。死んでいく人を助ける力は彼にはなかった。息を引きとる時間まで枕元にいて見守ってやるだけだった。
 戸田は昼は巡回をし、夜は自分の小屋でキニーネを丸薬に丸めていた。暗い入植地を星の光りを頼りに運平はトボトボと小屋を廻った。...

会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...