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小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=85

2024年11月23日

 朝、目覚るのが運平は怖しかった。今日は誰も死にませんように、と心から祈った。家は浄土真宗であるが、さほど信心深くもない若者だったのに、何かに祈らなければ朝起きられなかった。
 運平の祈りを無視して翌日の九日も三人死んでいった山下ムメの妹の寺田スエと、西ハツエの夫の卯八郎と、国崎音平の娘のヤエ子だった。
棺を作る板がもうなかった。ノコギリで板を引く体力のある男もほとんどいなかった。
ヤエ子は柳行李に納められた。紐で十字にしぼってある。運平は黙ってその紐をほどくと行李のふたを開けた去年の九月に産れたばかりの赤ん坊だった。
「なむあみだぶつ… … 」
沢山の子...

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