site.title

小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=86

2024年11月26日

 左足の下駄が木の根にひっかかり、彼は転倒した。倒れたとき、切株の先で切ったらしく、起き上ると右手の掌から血が出ていた。
 丁度近くを通りかかった戸田がすぐ手当てをした。看護卒出身だけあって、怪我の手当ては鮮やかなものだった。目にもとまらぬ速さでホータイを巻き、しかもあとで崩れないのだ。
 運平はジャトバの大木目指して駆けた。
空袋をはねて小屋に入ると謙蔵がひどくボンヤリと上半身を壁にもたせた姿で座っていた。小さく縮んだ赤ん坊がそこにいた、そっと手を当てると体は冷たくなっていた。
 二カ月前に運平がここに座って産れたこの赤ん坊を眺めたときには、この一家にまだ...

会員限定

有料会員限定コンテンツ

この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。

認証情報を確認中...

有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。

PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。

Loading...