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小説=「森の夢」=ブラジル日本移民の記録=醍醐麻沙夫=90

2024年11月30日

 四月になっても病勢は下火になる気配はなかった。三日にとし子が息をひきとった。三月に死んだ政道の弟でやっと二才になったばかりだった智も七日の午後に死んだ。二才二カ月。幼な児たちの魂はまるで水蒸気のように、あまりにあっ気なく昇天してしまう。
 八日に死んだのは上本スエである。四人家族全員重態で、まず母親の命が尽きた。あとには痩せおとろえた二人の幼な児をかかえた父親の己之吉が重体のまま残された。
 医者の処方箋に従ってキニーネ以外の薬を買いに、戸田は二度ほどバウルーへ行った。
 四月早々、戸田は、
「もうキニーネがありません」と運平に告げた。
 「え……?」
...

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