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ペルー先住民=国家不在でブラジル編入示唆=治安悪化で政府に「最後通牒」

2026年2月4日

万華鏡1
ペルー先住民コミュニティ「ベジャビスタ・カリャルー」の空撮(Foto:BellavistaCallaru1/Facebook)

 ペルー北東部のアマゾン国境地帯に位置する先住民コミュニティが、国家による公的サービスの放棄と治安の急激な悪化を理由に、隣国「ブラジルへの編入」を検討する意向を表明した。地域は長年、行政の空白や医療・教育の崩壊に加え、麻薬組織による暴力にさらされてきた。法的な実現性は極めて低いものの、一地域の困窮を超え、ペルー政府の統治能力と国境政策の脆弱さを露呈させた形だ。アジェンシアDCニュースなど(1)(2)(3)(4)が報じた。

 渦中にあるのは、マリスカル・ラモン・カスティーリャ郡の先住民集落ベジャビスタ・カリャルー。ブラジル、コロンビアと国境を接する「三国の交差点」に位置する。住民の多くを占めるチクナ族はブラジル側にも広大な生活圏を持ち、国境を越えた共同体を形成している。物理的な隔離から公共サービスの欠如が常態化しており、住民は国家の実質的な不在を訴えている。

 現地の指導者層は政府に対し、生活環境の改善と安全確保を求める文書を提出した。30日以内の具体的な回答を求めており、進展がない場合はブラジルへの編入という抜本的な選択肢を分析するとの方針を示した。地域代表のデシデリオ・フローレス・アヤンボ氏は、「対応が得られなければ、将来を左右する決断に踏み切る」と危機感をあらわにしている。

 背景には、麻薬密売組織や武装犯罪集団の浸透がある。警察や司法機関が常駐しない「治安の空白地帯」では、先住民指導者の暗殺や恐喝、若者の強制徴募が常態化している。国家の統治が及ばない領域を犯罪勢力が実効支配し、地域社会の存続を脅かしているのが実情だ。

 社会インフラも極限状態にある。約300人の生徒に対し教室は10室に留まり、学年混成の授業を余儀なくされている。医療体制はさらに深刻で、医師や助産師は不在。わずかな看護助手のみが対応しており、重症者やハイリスクの妊婦は事実上、ブラジル側の医療機関に依存せざるを得ない状況だ。

 経済面でもペルーの主権は希薄といえる。地域内ではペルー通貨(ソル)がほとんど流通せず、決済の主流はブラジル・レアルやコロンビア・ペソだ。アヤンボ氏が「自国通貨を見る機会が乏しい」と証言するように、住民生活は既に隣国の経済圏に事実上組み込まれている。

 もっとも、専門家は領土変更の法的可能性を否定する。サンパウロ連邦大学(Unifesp)のレジアネ・ブレッサン教授は、「国境画定から1世紀以上が経過しており、領土の譲渡には両国政府間の合意が不可欠。ペルー政府が応じる蓋然性は極めて低い」と指摘する。

 ペルー・カトリカ大学(PUCP)のシルレイ・タティアナ・ペーニャ・アイマラ氏は、編入には住民投票や条約締結といった膨大なプロセスが必要であり、「単一のコミュニティが独自に決定できる事案ではない」と分析する。同氏は、住民の真の狙いは編入そのものではなく、中央政府の介入を引き出すための「最後のアピール」であるとみている。

 要求が放置されれば、コミュニティ側は米州人権委員会(CIDH)への付託を検討しており、国際的な審査へと発展する可能性がある。専門家は、2026年の次期大統領選を控える中、ロレート県政府や大統領府による実務的な協議が最も現実的な解決策になるとみる。

 今回の動きは、同様の境遇にある他の先住民コミュニティへ波及する懸念も孕む。同地域はブラジルの犯罪組織やコロンビア革命軍(FARC)の残党、現地の暗殺集団が入り乱れる危険地帯だ。2018年から22年にかけてコカ栽培面積は3倍に拡大しており、麻薬輸送の中継拠点と化している。

 万が一、ブラジルによる隣国領の編入が実現すれば、1903年のアクレ紛争以来、122年ぶりの事態となる。当時はブラジル人ゴム採取者とボリビア政府の衝突、その後の買収を経て領土が移転した。現在の国際秩序下では極めて異例の要求であり、ペルー政府の今後の対応が注視される。


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