《記者コラム》バテリアの女王置かずに行進=子を失ったアーティスト思い

世界的に知られ、国内外からの観光客も訪れるリオのカーニバル。今年は、エスコーラ・デ・サンバのスペシャルグループのパレードが3月2~4日の3日間になり、サンパウロのパレードとの掛け持ちをする人も慌てずにリオに向かえる日程となった。そうした中、普通なら考えられない形で行進を行うと発表するエスコーラが出た。
リオの伝統的なエスコーラの一つ、ウニードス・ダ・チジュッカが10日、「今年はバテリア(楽団、ドラム)の女王を置かずにパレードを行う」と発表したのだ。打楽器などを演奏しながら行進するバテリアの先頭に立つ女王は旗手などと同様、パレードには不可欠なメンバーだ。
報道によれば、例年女王役を務める女性アーティストが1月末、妊娠中毒症で入院し、パレードに参加できないことが判明。リオ観光局は1月24日に、その女性がリーダーを務めるブロッコ(道のカーニバルに参加するサンバ集団)のパレードのキャンセルを発表。代役探しを含め、各所でカーニバルに向けた準備が進む中、女性アーティストは今月10日、妊娠中毒症のために妊娠6カ月目の早産となった女児が生後4日目の5日に亡くなったと発表した。この発表は驚きをもって受け止められ、女児の死後5日間という発表の遅れに両親の心の痛みの大きさを感じた人も多かった。エスコーラは同日、バテリアの女王への「尊敬と配慮、愛情」の故に、楽隊を率いる女王不在という異例の形態で行進を行うと発表した。
エスコーラは同時に、「祈りでもある『オロルン・コ・シ・プレ・オ』というメッセージを通じ、女王とその伴侶に、少女が再びオルムの腕の中に戻ったことへの深い哀悼の意を表したい」「豊穣、母性、愛の女神オクスンはウニードス・ダ・チジュッカの守護神であり、今年のパレードのテーマであるログン・エデの母でもある。オクスンの涙が泣く母親一人一人と共にあり、悲しみの中にいる家族全員が、愛と優しさと愛情に満ちた彼女の腕の中に迎えられますように」というメッセージをSNSに投稿した。
パレードの評価項目にはバテリアなども入っているから、その女王を欠くことが評価にも響き得ることは重々承知のはずのエスコーラが、「亡くなった子供は今も、これからも、両親と家族の人生を照らす星であり、私達の道を照らす星でもある。敬意と配慮と愛情から、共感、重要性、敬意のしるしとして、バテリアのリーダーには誰も任命しないことを決めた」と発表したことは重い。
待ち望んでいた子供との死別は辛い。自分の健康上の理由で早期出産となり、他界したとあれば、自分を責める気持ちも生じ得る。そんな母親を思いやるエスコーラと並行するように、リオ観光局は同日、女王が率いていたブロッコの代わりに「ショーラ・ミ・リガ」という名のブロッコが16日にパレードを行うとアナウンスした。
喜びには進んで寄り添う人も多いが、悲しみに寄り添うことは、喜びの場合以上に必要なのに簡単ではない。我が子や伴侶、友人など、愛する人を失った悲しみの中にある人達に深い慰めと寄り添ってくれる人が与えられることを心から願いつつ。(み)(1)(2)(3)(4)