《記者コラム》強いヒロイン生み出す=フェミニズムの背後にある文化的闇

昨年のパリ五輪で活躍した女子体操のレベッカ・アンドラーデや、今年オスカーを受賞したブラジル映画「アイム・スティル・ヒア」の主演女優フェルナンダ・トーレスとフェルナンダ・モンテネグロの母娘などを見ていると、今のブラジルは「ヒーローよりもヒロインの時代」になっている気がする。サッカーで国際的ヒーローが不在という側面もあるが、「時の人」としてメディアを賑わせているのは圧倒的に女性が多く思える。
ヒロインは彼女たちだけではない。マルタをはじめとした女子サッカー選手やアニエレ・フランコ人種平等相などのルーラ政権の女性閣僚、トランスジェンダー連邦議員のエリカ・ヒルトン下議、国際的に活躍する女性歌手のアニッタなども入るだろう。
昨今のブラジルではこうした女性たちを「ライニャ(クイーン)」と称して強く尊敬する風潮がある。この風潮は日本で言うところの「女性が元気に活躍する社会」のような生易しいものではない。「強いフェミニズムに支えられた誇り」――ヒロインとなる彼女たちからも、彼女たちを支持する人たちからも強く感じ取ることができる。
このフェミニズムの背後には熾烈な女性への蔑視、差別が存在することを見逃してはならない。ブラジルは女性を標的にした殺人、いわゆる「フェミサイド(ポルトガル語でフェミニシジオ)」が多発する国として知られている。
2024年に行われた統計調査では6時間に1件の割合でフェミサイドが起こっていることが判明した。この発生率は世界で5番目の高さだ。また、トランスジェンダーの殺害数に限っては世界一となっている。
今年の3月8日の国際女性デーで最も話題になったのも、5日にサンパウロ州カジャマールで遺体となって発見された18歳の女性ヴィトーリア・レジーナ・デ・ソウザさんに対してのフェミサイドだ。カーニバルに入る直前の2月26日に行方不明になり、カーニバル明けから彼女の死がずっと話題になり続けている。
話題になったのはその壮絶な亡くなり方だ。ナイフで3回刺されただけでなく、頭髪が剃られているなど、遺体に信じられないような拷問が加えられた痕跡があった。このショックが未だに国内で尾を引いている。
ブラジルの強靭なフェミニズムはこのような女性への蔑視、嫌悪に対する反動で生まれたとも言える。手放しでは喜べない複雑な産物であるのだ。(陽)