米国がブラジルの希少鉱物狙う?=ニオブが関税交渉のカードに

在ブラジル米国大使館の代理大使ガブリエル・エスコバル氏が23日、大手鉱物採掘会社や研究機関を代表するブラジル鉱物院(Ibram)と会合し、ブラジルのリチウム、ニオブ、レアアースなどの「重要かつ戦略的鉱物」に強い関心を示していると表明した。これに対しIbram側は、そのような交渉は政府の専権事項であり、企業が直接対応すべきではないと伝えたと24日付オ・グローボ(1)が報じた。
鉱物資源をめぐる交渉は単なる経済問題にとどまらず、地政学的、軍事的側面を持つ。政府関係者によれば、鉱物の採掘・販売は企業が国の許可を得て行っているが、現状の外交関係を踏まえると、戦略鉱物の供給は交渉材料として慎重に扱う必要があるという。
ブラジルの24年の鉱物輸出量は約4億トン、輸出額は約434億ドル。主な輸出先は中国(24%)、ドイツ(12%)で、輸出は貿易黒字を支えている。一方、同年の鉱物輸入は約40万トン、総額は約43億9200万ドルに達する。
米国が重視する51種の鉱物のうち、ブラジルは銅、リチウム、シリコン、レアアースで有望な埋蔵量を持つ。中でもニオブは、軽量で耐熱性に優れ、高性能鋼や磁性材料、超伝導体の製造に不可欠な素材で、航空機やロケットなど防衛産業の最先端技術には欠かせない。近年では超高速ミサイルの開発にも用いられ、軍事バランスへの影響が懸念されている。
ブラジルは世界のニオブ埋蔵量の90%以上を保有し、世界生産の約92%を占める。次がカナダで、この2カ国で世界の需要に対応している。米国は輸入の66%をブラジルに依存しているものの、ブラジルのニオブ輸出全体に占める米国向けは約7%にとどまり、最大の輸出先は中国(44%)だ。
中国は主要な取引相手であると同時に、ブラジル国内のニオブ産業に資本参加しており、同国企業が主要鉱山の一部を保有するなど関与は深い。こうした背景もあり、供給網は国際的に複雑化しており、鉱物資源の取り扱いについては、一層慎重な対応が求められている。
トランプ米大統領はこれらの鉱物を地政学的資源と位置づけ、デンマークからグリーンランドを取得しようとしたり、ウクライナに鉱物資源の開発権譲渡を求めるなど、資源確保に積極的な姿勢を示してきた。一方、ブラジル国内では鉱物を外交交渉の武器とすることに慎重な意見が多く、専門家は輸出制限が米国との関係悪化や世界市場の不安定化を招くと指摘している。(2)
ブラジル鉱物に関する米国の動きに対し、ルーラ大統領は24日、「ブラジルの石油、金、豊富な鉱物資源はすべて国民のものであり、誰にも渡さない」と宣言し、トランプ氏による関税引き上げへの反発として主権を守る強い姿勢を示す。ルーラ政権は「ブラジルはブラジル国民のもの」というスローガンを掲げ、国民の愛国心を喚起しつつ、鉱物資源の主権堅持を明確にしている。(3)
今後の米国との交渉では経済的利益と国家主権のバランスが重要だ。専門家は強硬策が逆効果を招くおそれがあるとして、合意形成による解決を重視している。Ibramによると、複数分野の企業で構成される代表団が9〜10月に訪米し、米国の輸入業者に対してブラジルとの交渉促進を働きかける計画があるという。
世界のニオブ供給の過半数を握るブラジルが戦略資源の安定供給を担保することは、国際社会における責任ともなっている。