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北半球の代償払わされる南半球=気候変動対策が生む新たな弊害

2025年7月26日

コバルト(Foto: Alchemist-hp, via Wikimedia Commons)
コバルト(Foto: Alchemist-hp, via Wikimedia Commons)

 北半球を中心に化石燃料から再生可能エネルギーへの移行が加速する裏で、「グリーンな未来」の代償が南半球を中心とする一部地域に重くのしかかっている。エネルギー転換の恩恵は先進国に集中する一方、資源採掘が生み出す社会的・環境的コストは途上国に押し付けられていると25日付テラ(1)が報じた。

 エネルギー転換に欠かせない鉱物資源は、主にグローバルサウス(南半球に位置する途上国の総称)の国々から供給されており、鉱山労働者の過酷な労働環境や住民の健康被害、さらには環境汚染が深刻化している。

 現在、世界で消費されるエネルギーの約80%は依然として化石燃料由来であり、その影響で汚染や気候変動が悪化している。この状況を打破すべく、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギー技術は急速に普及しており、再生可能エネルギーへの投資の86・5%は13~22年に集中している。

 再生可能エネルギーは化石燃料の使用削減において重要な解決策とされているが、その設備はエネルギー密度が低く、寿命も短いため大量の鉱物資源を消費する必要がある。たとえば、風力タービンはガス発電所と同じ容量を持つ場合、最大9倍の鉱物を必要とし、電気自動車も大容量のバッテリーを搭載するため、鉱物の使用量が増加する。

 だが、これらの鉱物資源は十分にリサイクルされておらず、新たな採掘の必要性が一層高まっている。50年までに鉱物の需要は200%以上増加することが予測され、特に電力産業と交通業界における鉱物需要は大幅に増加すると見込まれている。

 鉱物資源の採掘は、主にグローバルサウスの国々で行われており、これらの地域では過酷な労働環境、環境汚染、社会的不平等が深刻な問題となっている。コバルト、ニッケル、銅、リチウムといった鉱物は特に途上国から供給され、これらの国々では多国籍企業が採掘を主導しているが、労働者の安全基準は低く、環境への配慮も不足している。

 特にコバルトの世界的な生産量の約74%を占めるコンゴ民主共和国では、鉱山労働者が有害な金属にさらされる危険に直面し、深刻な健康被害が報告される。最近の調査では、鉱山周辺の水質汚染が漁業や農業に悪影響を及ぼし、地域住民に健康被害を与えていることが確認された。児童労働の問題も浮上しており、国際人権団体が改善に向けて動き出している。

 一方、インドネシアではニッケル採掘の急増により、環境問題が深刻化している。ニッケルは電池やエネルギー貯蔵システムに欠かせない鉱物だが、その採掘は依然として石炭を使用して行われ、これが二酸化炭素排出量を増加させ、環境への負担を大きくしている。インドネシアは近年、世界最大のニッケル供給国となったものの、周辺地域では土壌や水が汚染され、漁業や農業に依存するコミュニティが影響を受けている。

 チリやペルーでは風力発電や太陽光発電に必要な銅の採掘が行われているが、チリ北部では住民が鉱山周辺の有害な粉塵にさらされ、呼吸器系の病気を患っており、ペルーでも採掘地域で水質汚染が確認され、住民は重金属中毒のリスクに直面している。

 他方、リチウムの採掘が行われているアルゼンチン、ボリビア、チリにまたがる「リチウム三角地帯」では、水資源の枯渇が深刻な問題となっている。リチウムは主に電気自動車のバッテリーに使用されるが、その採掘過程は大量の水を消費するため、周辺地域の農業や牧畜に影響を与えており、地元住民の生活に深刻な影響を及ぼしている。

 エネルギー転換を進めるためには、鉱物資源の採掘に関する厳格な規制と企業責任の明確化が求められるとともに、鉱物のリサイクル技術の向上や採掘地域に対する社会的・経済的支援の強化が急務となっている。


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