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COP30でアサイー禁止?!=揺れる安全性と商売の境界線

2025年8月19日

万華鏡2
アサイーボウル(Foto: igor constantino/unsplash)

 ブラジルアマゾンを象徴する〝スーパーフード〟として世界的に知られるアサイーが、その魅力を発信するはずの国際会議の場で、一時提供禁止となる由々しき事態が起こった。11月にパラー州ベレンで開催される第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)の組織委員会は、シャーガス病への感染リスクなどを理由に、アサイーを含むアマゾン地域の伝統食材の提供を禁じるとする要項を発表した。だが、セルソ・サビーノ観光相の強い働きかけを受け、批判が高まった末に方針を撤回。地元文化と国際基準の間で揺れる判断が波紋を広げていると17日付CBNなど(1)(2)(3)が報じた。

 この禁止方針は、先週末に公開された飲食関連のガイドラインに明記され、COP30会場内のレストランおよび飲食ブースに適用されると定められた。ガイドラインの実務的な策定は、飲食関連業務の委託先であるイベロアメリカ諸国機構(OEI)が担っており、アサイーに関しては適切な処理がなされていない場合、「シャーガス病への感染リスクがある」と説明。無加工のフルーツジュースは「汚染リスクが高い」とし、トゥクピやマニソバといった伝統的アマゾン料理についても、「天然毒素を含む可能性がある」と禁止対象に含まれていた。

 アサイーに関しては、近年の研究が懸念の背景にある。(4)アクレ連邦大学のオジルソン・シルヴェストレ教授らが2020年に発表したシャーガス病報告では、かつては肉食性昆虫サシガメによる刺咬が主な感染経路とされていたが、現在ではアサイーやジュース類などの汚染食品を介した経口感染が主流となっていると指摘されている。症状は、発熱や頭痛、顔や脚のむくみなどが挙げられ、急性期に治療を受けないまま放置すると、心不全や巨大結腸・食道症などを引き起こす恐れがある。

 一方、適切な処理によってリスクは軽減可能とされ、80度で10秒間加熱する「ブランチング処理」が推奨されている。この工程により、原因となる原虫クルーズトリパノソーマは死滅し、安全に消費できるという。同教授は、加工業者への衛生教育や行政による監視体制の必要性を訴えている。

 この禁止決定は、開催地である北部アマゾン地域をはじめとする国内外から激しい反発を招いた。観光・地域産業振興の観点からも、地元の文化的アイデンティティと経済活動を損なう措置だとの批判が噴出。サビーノ観光相は16日、SNSを通じて「OEIに働きかけ、要項の修正を取り付けた」と発表し、火消しに動いた。

 修正後の要項では、アマゾン食材に関する言及は削除され、代わって衛生管理の徹底を求める一般的な文言に差し替えられた。同じく批判の対象となっていた他の制限事項についても緩和が行われた。赤身肉の提供に関しては、当初「避けること」とされていた表現が、「動物性食品の消費を段階的に減らすことを奨励する」との文言に変更された。21時以降のアルコール販売を禁じていた規定も見直され、レストランの営業終了時刻まで提供が認められることとなった。

 COP30は、気候変動対策における国際協調の枠組みとして各国の政府関係者、専門家、市民社会が一堂に会する重要な会議であり、ブラジルが同会議をアマゾン地域で初めて主催するという意義も大きい。地元文化の象徴とも言えるアサイーをめぐる今回の一連の混乱は、地域の声と国際的な衛生・環境基準の間でいかにバランスを取るかという課題を改めて浮き彫りにした。


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