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COP30=気候危機に対応する日本の技術=ジャパン・パビリオン紹介(2)=エネルギー転換・暑熱対策編

2025年12月18日

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産業の脱炭素化、水素・アンモニアインフラの整備、肥料供給の不安定化、都市部の電力逼迫、そして猛暑への適応――。いまブラジルが直面する課題は多岐にわたるが、そのどれもが気候危機と密接に結びついている。本稿では、これらの課題に対し、脱炭素エネルギー、分散型アンモニア生産、建物の省エネ、放射冷却による適応策といった実践的なソリューションを提示した日本企業4社の取り組みを紹介する。

三菱重工:水素・アンモニア・CO2回収で産業の脱炭素を支える

創業140年を超える総合重工メーカーである同社は、脱炭素の中核となる水素・アンモニア・CO2回収の技術群を紹介した。

三菱重工は1999年に最初の商用CO2回収プラントを納入して以来、世界各地で実績を重ねてきた。展示では、回収したCO2を枯渇油田に圧入して石油・ガスの増産につなげる米国のEOR(石油増進回収)事例や、発電所排ガスからCO2を分離するイタリアのCCUS設備を紹介し、来場者の関心を集めた。

米ユタ州で進む「再エネ→水素→地中貯蔵→発電」の循環モデルでは、余剰再エネでつくった水素を地下岩塩空洞に貯蔵し、冬季の電力不足時にガスタービン燃料として使う仕組みを説明。展示タービンは水素30%混焼に対応し、将来的には100%水素燃焼を目指すという。

ブラジル人来場者の関心が特に高かったのは「水素→アンモニア→肥料化」の技術だ。農業大国ブラジルでは肥料価格の変動や輸入依存が大きな課題であり、一貫工程を自社で担う同社技術に注目が集まったと、篠田治人氏(GX事業推進部上席主任)と橋本祥吾氏(グループ戦略推進室上席主任)は語る。「再エネ比率が高いブラジルには、グリーン水素やグリーンアンモニアに大きな可能性がある」と述べ、農業・エネルギー分野での連携に期待を寄せた。

つばめBHB:肥料危機を変える分散型アンモニア生産

2017年設立のつばめBHBは、東京工業大学(現・東京科学大学)発の技術を基盤に、小型・分散型アンモニア生産システムの実装を目指すスタートアップだ。

同社が取り組む課題は、尿素・窒素肥料のサプライチェーンが〝産ガス国〟に集中し、地政学リスクの影響を強く受ける構造的問題だ。つばめBHBブラジルCEO・澤田哲郎氏によれば、2022年には国際価格が一時2倍に跳ね上がるなど、市場の脆弱性が顕在化したという。

核心技術であるエレクトライド触媒は、従来の鉄触媒より低温・低圧でアンモニアを合成できるため、設備を小型化しやすい。地域ごとに小規模プラントを配置する「分散型モデル」と相性が良く、大規模集中型とは逆の発想である、と澤田氏は説明する。

日本ではINPEXの新潟・柏崎プロジェクトで、CCS由来の水素の一部を同社プラントでアンモニア化する取り組みが進み、建設が完了して試運転中とのことだ。

一方、最優先市場として位置づけるのがブラジルだ。サトウキビ由来バイオエネルギー大手Atvosと協働し、バガス等の副産物からアンモニアを生産し、肥料として農地に戻す――脱炭素× 循環経済×肥料国産化を同時に達成する構想だ。2025年の最終投資決定を目指し、現在詳細設計が進む。

肥料自給率がわずか4・3%(2022年「国家肥料計画」)にとどまるブラジルでは関心が高く、澤田氏は「サトウキビ産業との親和性や市場規模を考えると、ブラジルは最重要拠点になる」と話した。

ダイキン:湿度制御で省エネを実現する空調技術

ダイキンは、省エネ型インバーターエアコンやヒートポンプ技術に加え、高温多湿地域向けに「湿度制御」を重視した「冷やしすぎ防止」システムを紹介した。

島田和哉氏(CSR・地球環境センター)によれば、ベレンのような気候では湿度を下げるために設定温度を20度前後まで下げることが多く、「寒すぎる室温」と「無駄な電力消費」が同時に発生しているという。

同社が提案するのは、空調と熱交換型換気システムを組み合わせ、室内の「冷たく乾いた空気」のエネルギーを再利用し、外の暑湿空気の流入を抑える仕組みだ。これにより湿度を適切に下げつつ、設定温度を26度程度に保っても快適性を損なわない。

実証では従来方式比で最大40%の省エネ効果が確認された。展示ブースでは来場者が実際に体感できる仕掛けも用意され、「ベレンのような地域に最適」「電気代が高いブラジルでは重要な技術」といった声が寄せられた。

島田氏は「この地域には大きなポテンシャルがある」と述べ、アマゾン地域の課題に寄り添う技術として期待を示した。(続く、武田エリアス真由子記者)



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