ぶらじる歌壇=47=小濃芳子撰
サンパウロ 梅崎嘉明
忘年会
老人の吾には最後の会合か勇みいでたつ楽書俱楽部へ
久しぶりに逢いたる友と握手するこれが最後かと裡につぶやき
またと逢う機会のあれば神の加護口には出さず笑顔で対話
集まりし会員一同三十名の写真はよろし皆笑顔にて
賜わりし花を庭先に移し植え日々眺めつつ吾の生き甲斐
サンパウロ 橋本孝子
控えめな日本女性のイメチェンジ高市総理の押し強き政治
着物着て今年最後の茶のけいこ心引き締め難しお点前
サンパウロ 山岡秋雄
街路にて遊ぶ子供らおらぬなりいかなる資質持ちて育つや
ブラジルの国中走るトラックは二百四十万台なりと
数知れぬ精霊舟が渡りゆく移民史刻むリベイラ川を
鎮魂の精霊舟の流れ向けわれは手向ける尺八の音を
移住者が稲作をせし証とう煉瓦造りの精米所跡
多忙なるも一休みする和歌を詠み己が名を得し一休禅師
ミナス路の台湾人のレストラン台伯日の味混じり合う
明け方に哀し気になく猫の声飼われる身にも悩みのありや
高原の土地のカフェーは味が良く低地の物は味劣るとう
これきりとなるやもしれぬ病床の友を訪ねて写真に収む
グワルーリョス 長井エミ子
諍いは青かりし故義父母とお盆はいつも悲しみ連れくる
週末は帰り来し娘のいる幸よ夜半降る雨もやわらかきかな
今日の空語りかくよな雲乗せて思はず応うる諸手を挙げて
紫の匂いを持たぬこの花はふる里に似て優し気な花
もう想うまい恋うまいと思えども心に根を張る故郷の山河
山彦を呼べば手元に戻り来ぬ永久にかえらぬ青春とう文字
入れ墨は馴染めなけれど若者よタトウ万才ブラジル万才
サンパウロ 木村衛
頂きし椰子樹を読みて先達のあの人この人歌人を思う
歌人の心の訴え身に沁みて我もと思えど思いに遠く
何もかも自分でしようとする我に娘は厳しく弱みをつく
山奥の陋屋に住み作物をそんな夢みる老いの妄想
めぐり来し卒寿も半ばの年齢なれば此のひとときの生をいとしむ
サンパウロ 安中攻
八十路来て聞く波の音はるかなり昭和・平成・令和それぞれ
人生は重荷背負いて遠路ゆく法話の後の清しい夕刻
健康で過ごせし日々を感謝して師走の夜空に下弦の月みる
あの人の消息そっと訪ねても時代は移り知る人もなし
聖祭の詣参りの人達か無言で微笑み返し過ぎゆく
サンジョゼ・ドス・カンポス 藤島一雄
巡り来る四季で咲く花変わらねど人変わりゆく年取るたびに
蝉時雨地上で生きるわずかな日離別思わす鳴き声哀し
上皇様と同年のわれ十二月共に迎える九十二才
上のひ孫十五で女大人びて背丈もすでにわれを越したり
ひ孫らの成人式を見たいねと言ってた妻も逝き久しき
時流れ激動昭和一桁のわれらも老いて九十代に
読者文芸
◆ブラジリア俳句会(12月)
古里の変わらぬ清流蛍飛ぶ 山根敦枝
星のごと電飾仰ぐ聖夜かな 浜田献
夢に見る雪降る里のクリスマス 渡辺隆夫
初めての女性首相や年は行く 長谷部蜻蛉子
里山に保護され守るホタルかな 田中勝子
逃水やベレンに至るこの道に 荒木皐月
◆ 名歌から学ぶ短歌の真髄 ◆
短歌史に残る有名歌人の歌から心髄を学ぶコーナーです。良い歌を沢山読み触れる事でよりよい作歌に繋がるはず。
真夜中をひとり静かに茶をたてて心の中をあたためておる
山崎方代
最近の世の中は、益々忙しく、にぎやかに走り回る社会となりました。科学の進歩に依り物事の結果をより早く知る事が人生の勝利につながるようになりました。
人々は、物事を早く知り、掴むことに喜びを感じるようになりました。
それが、進歩を続ける人間の、社会の道だと思うようになりました。
そのために、エネルギーを使いすぎました。使いすぎたエネルギーは疲労がたまり、回復は遅れてしまい、体に異常ががでてきます。
そのようなことになる前に、夜には茶をたててみましょう。
思うようには行きませんが、理想を追い求めて実行したいものです。
この歌のはじめの「ま夜中を」は、広く世の中においての意味です。
複雑な世の中に疲れ果てた心を、休ませ慰めるのは、深き夜に一人歌を詠むことかもしれません。そして、冷たくなったこころを温めることができれば、素晴らしいことです。
戦争のため、右目失明、左目微弱となられた作者のこころの目は、健常者より鋭く働いてたことでしょう。
目に見えないこと、事ほど大切なものはありません。
目に見えないものを歌にして、難しいですがいきていきましょう。
必ず来る、明日のために。
《備考》 山崎方代(やまざき ほうだい)
大正3年 山梨県右左口むらにうまれる。
16歳の頃から、作歌をはじめる。
「水甕」「一路」などに所属するも、応召のため中断
戦争で、片目失明、片目、微弱となる。
戦後、岡部桂一郎らと、「工人」創刊
歌集 「方代」「こほろぎ」など。
昭和60年没








