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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(315)

2026年1月8日


皇太子ご夫妻の訪伯は、日本とブラジルの間に新時代を開いた、と言われる。

両国民、特に指導層の相手国に対する関心が高まり、人間の往来が活発化、やがて各界、特に経済界で様々なプロジェクトが企画・具体化されることになったからである。


奇跡の成長


一九六八年、ブラジル経済は、その表情を一変させた。

高成長を遂げたのである。国民総生産の伸び率は、年間九㌫を超した。インフレは二〇㌫台に下がった。翌年以降もその勢いは続く。〝ブラジルの奇跡〟と呼ばれた

何故、そんなことが起きたのか?

革命後、ブラジル経済は、破綻状態から抜け出したとは言え、低迷を続けていた。国民の多くは貧困に苦しんでいた。米国の経済協力があったとは言え、無論、それには限度があった。

しかし革命政権の閣僚も高級官僚も、どうしたらよいか判らず、困り抜いていた。

その中で「方法が一つある」と提唱した人物がいた。

サンパウロ大学の教授デルフィン・ネットである。

彼の提唱した方法とは、判り易く一言で表現すれば「借金」であった。

ジャンジャン借金してドンドン投資し、経済活動を拡大するというのである。

最初、これに着目したサンパウロ州政府が、彼を財務長官に招いた。一九六七年のことである。未だ三十代末という若さであった。

ところが直ぐ革命政権の蔵相に転じた。

困りぬいていた政権が引き抜いたのだ。

これに答えてデルフィンは、短期間で高成長を実現させた。

しかし彼は、それを実現するため国外・国内から、急激に莫大な金を借りまくっていた。そして基幹産業のほか、輸入代替・輸出産業に注ぎ込んだ。

一方で、消費者金融制度の改革、株式市場の育成、投資銀行の創設などで、民間資金の流動性を高めた。

その結果、まだブラジル経済は規模が小さかったために、数字上は高成長をしてしまった──ということに過ぎない。

奇跡などではない。

一方、インフレは下がったといっても、正常な状態に戻ったわけではなかった。実は、市場の消化能力以上に国債を発行していたのだ。

その事実を誤魔化すためにコレソン・モネタリア=通貨価値修正=などという制度をつくり、これが何か巧妙な手法であるかの様に宣伝していた。が、所詮、小手先の細工に過ぎなかった。

ここで問題は急激で莫大な投資の原資は、借りた金だったことである。

徐々にならともかく、こういう借金は、企業であれ国家であれ、極めて危険である。

借りた金は返さなくてはならない。利子もつくし、その利子は変動する。

一方、投資資金の回収は、長期を要する。運転資金が必要になる。さらに成長を継続させようとすると、新たな投資が必要となる。

資金の必要量はドンドン膨れ上がっていく。そのヤリクリは、机上の計算どおりには行かない。

だからといって、途中で「ヤメタ!」というわけには行かない。

想定外の事態が起こることもある。それに備えることは、ある程度まではできるが、完璧には不可能である。

企業の場合、年季の入った経営者なら、そこまで読み切って融資を受け、投資をする。賭けはしない。あるいは、一流企業の場合(経営者は数年ごとに交代しても)そういう仕組みを作り上げている。

国家の場合、舵取り役は次々と代わる。しかも国家機構は巨大で複雑である。どんな舵取り役でも、それに精通してはいない。その機構の中には白蟻が無数に巣食っている。

さらに舵には、強力な政治的圧力があらゆる方面からかかる。

国際情勢も千変万化する。

事が起きてから、舵取り役が、

「白蟻が多すぎた」

「圧力がかかり過ぎた」

「国際情勢が、こんなことになるとは想定外だった」

などと言っても遅い。

「急激、莫大な借金」そのものが失策だったのである。そのことは、やがて明らかになる。一九七〇年代の二度に渡る石油ショックによって…。


軍政への反抗、激化


一方、一九六〇年代後半は、革命政権の独裁的軍政に対する反抗運動が起こり、激化した時期でもあった。

さらに武装ゲリラの過激な非合法活動が頻発してもいた。

革命政権は、当初、民主的な選挙制度を維持していた。が、六五年、二州の知事選で野党候補が勝利すると、軍政令を発し、政党を解散させ、選挙も停止した。

これに憤慨した学生や労組、左翼勢力がデモを起こした。デモは急速に規模を拡大、全国に広まった。

武装ゲリラは、資金確保のため銀行を次々と襲撃した。

対して革命政権は、再び軍政令を発し、反抗分子を軍、政府、議会から追放、報道の検閲を強化した。

治安当局は反抗分子を多数逮捕、拷問にかけた。それによる死者が出始め、増加して行った。(つづく)


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