「まず話を聞く」医療と信仰の現場=南伯巡回診療に僧侶が同行
南伯の移住地を結ぶ赤土の道を、1台の車が進んでいく。ハンドルを握るのは運転手、その後部座席には医師と僧侶が並ぶ。巡回診療の中心に立つのは、森口エミリオ秀幸医師だ。祖父の代から80年以上続くこの活動は、無医村に近い日本人移住地を毎年訪ね、高齢の日系移民の健康を支えてきた。昨年8月1日から13日に行われた巡回診療に同行したのが、南米開教区の大江田晃義開教使(45歳、宮城県出身)だ。渡伯22年で、南米開教区クリチバ日伯寺の主任開教使を務める。
今回はサンタカタリーナ州とリオ・グランデ・ド・スル州の移住地を回るもの。診療会場となるのは、公民館や個人宅、日本人会の会館。年に一度、この日を待ちわびてきた人々が集まる。多くは戦後間もない時期にブラジルへ渡った一世で、日本語しか話せない人も少なくない。
森口医師の診察は、数値を確認するだけのものではない。一人あたり30分から40分をかけ、血圧や血糖値とともに、この一年の暮らしぶりを丁寧に聞き取っていく。必要があれば専門医の受診を勧め、入院時の助言も惜しまない。その姿を間近で見ながら、大江田さんは「医療とは、人の人生を丸ごと受け止める営みなのだ」と感じたという。
診察を待つ間、大江田さんは高齢者一人ひとりの前に座り、静かに話を聞いた。病気のことだけでなく、家族との関係、亡くなった配偶者への思い、移住当時の苦労話。言葉を重ねるうち、硬かった表情が次第にほぐれていく。「話すだけで楽になった」「来てくれてありがとう」。そんな言葉をかけられるたびに、開教使としての役割を実感した。
巡回地の多くには仏教寺院がなく、葬儀や法要をカトリックで行ってきた家庭もある。信仰の問題というより、頼れる存在が近くにいなかったからだ。今回の訪問を機に、仏式での法要が営まれた家もあった。「宗派を超えて、人は話を聞いてもらえる場を必要としている」。その現実を、大江田さんは肌で感じ取った。
巡回診療を取り巻く状況は厳しい。2024年、リオ・グランデ・ド・スル州を襲った記録的豪雨は、森口医師の活動拠点にも甚大な被害をもたらした。機材は失われ、拠点の移転も余儀なくされた。巡回診療には毎回多額の費用がかかり、資金確保は容易ではない。それでも森口医師は歩みを止めない。移動中の車内でも、各地から届く健康相談のメッセージに応じ続ける姿があった。
「まず話を聞く」。それは、医療にも宗教にも共通する姿勢だと大江田さんは語る。身体の不調の背後には、孤独や不安がある。移住地での暮らしが続くためには、医療と同時に、心のよりどころが欠かせない。巡回診療に同行した経験は、開教活動の原点を改めて問い直す機会となった。









