小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=3
また、自動車が現われると四方から集まり、四角ばった黒い幌のフォード車をしげしげと眺めた。走り出すとガソリンの臭いが香ばしいと、後を追ったものである。その頃の自動車は子供の走る速度とほぼ同じくらいで、一同は村の外れまで一緒に走った。如何とも悠長な農村風景であった。
いま、リオ・デ・ジャネイロの港湾を旋回している飛行艇を眼のあたりにして、律子はその躍動美に見惚れ、自分が従軍でもしているかのような錯覚にとらわれた。あの悠長な村に住んでいる友人たちに見せてやりたいものだとしきりに思った。
サントス上陸
田倉惣一は四十二歳になっていた。奈良県の盆地法貴...
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