小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=34
翌日、田倉は仕事には出たものの、午後になって、悪寒に襲われた。コーヒーの樹蔭に横になり、上着を肩からかけ、弁当入れの袋を頭から被ったが寒さと震えが治まらない。三〇分も過ぎて悪寒が去ると、次に熱が出はじめた。冴えなかった顔色が紅潮して、今度は被っていた物を次々と投げ捨てた。我慢強い田倉であったが時々うめいた。四〇度近い熱はありそうだ。同じ時刻に寒気と高熱の発作が反復することから、マラリアであることが判った。
田倉は日本からキニーネを用意してきていた。その白い丸薬を、処方箋どおりに服用したが、一向に効かない。内臓をこわし、丸薬はそのまま下ってしまう。マラリアに罹病...
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