《記者コラム》伝統的な生活を取り戻す=米国、原住民族の希望でダム破壊

8~9日に開催されたアマゾン・サミットは世界中の注目を集めた。中でも先住、原住民族の存在とその伝統的な文化、生活の持続可能性を考慮した維持問題は、事前イベントや首脳同士の討議の中でも焦点の一つとなっていた。
4日付アジェンシア・ブラジルなど(1)(2)(3)によると、先住民族にとっての「経済」は生活の安全を保証する基盤そのもので、収益を得る以上の意味を持つ。彼らにとり、アマゾンの多様な生物群などは天然資源であり、それから作る手工芸品や得られる食物が自然が与えてくれる産物なのだ。
先住民達は経済成長や人権保護の名の下に行われる開発や鉱物採掘、農牧地拡大などが先住民族を苦しめ、殺してきたと抗議している。アフリカを起源とする解放奴隷達が作った集落(キロンボ)の住民(キロンボラ)が「伝統的な知識は地球を救い得る」と訴えているのも、根は同じと言えるだろう。
9日付G1サイト(4)は、22年には森林伐採が盛んだった先住民保護区で、23年上半期の森林伐採が98~99%減少したという記事を掲載した。金の不法採掘などの取り締まり厳密化の効果が表れたものだろう。疲弊して放置された農牧地を再生すれば、森を伐採しなくても農業生産を増やせるという研究報告のことも思い出す。
西欧式の経済理念や自分達の考え方を押し付け、現地の伝統的な文化や生活様式を壊した例は世界中にある。1日付G1サイト(5)が報じた、米国のカリフォルニア州とオレゴン州の境に沿って続くダムの取り壊し作業はその反省に立って行われている事業の一例だ。
同記事によれば、クラマス川にある四つの水力発電所ダムの取り壊しは来年末に終わる予定で、1世紀以上、水底となっていた土地に陽が届くようになる。644キロにわたるクラマス川は絶滅危惧種の魚や野生動物のために解放される。
同プロジェクトは、魚の住む川や昔ながらの生活を取り戻したいという原住民達の願いが発端となって動き出した。取り壊し後はダム建造前の自然環境を取り戻すために、原住民達が集めた170億個ともいわれる植物の種の植え付けなどが行われる。川岸に植えた木が根を張って土を保持し、実を成らせるようになるまでには何年、何十年もかかる。
同記事には米国ではここ25年間で2千を超えるダムが撤去されたとある。自然と共存し、生活の安全を保証するほどまでに環境を回復させる勇気を他の国や人々が持てるかどうか考えさせられる。各種の試みやサミットを通じ、収益だけでは測れない、より豊かな経済を目指す営みが広がるよう、願わされる。(み)