《記者コラム》選挙前から矛盾していたブラジルメディアの「ミレイ圧勝」予想

22日に行われたアルゼンチンの大統領選一次投票で、超リベラル派候補のハビエル・ミレイ氏が2位で決選投票に進むことになった。ブラジルメディアの多くはミレイ氏の圧勝を予想し、今回の結果を「予想外」と報じている。だが、コラム子からすれば、ミレイ氏の圧勝を予想したブラジルメディアの方が不思議だ。
8月の予備選でミレイ氏が勝利した際にも本コラムで書いたが、今回の一次選挙が予備選の直後、遅くとも1カ月後だったらミレイ氏の圧勝はありえただろう。だが、実際は2カ月と微妙に長い間があいてしまっている。
それだけの時間があれば、「いや、待てよ」と冷静に考え直す機会も生まれる。2カ月という時間は、瞬間的な熱狂に頼る選挙戦略のミレイ氏には不利に働いた。
「ペソをドルに」「中銀廃止」など、革新的な響きを持ったアイデアは瞬間的には聞こえがよく、「それくらいしないと国は変わらない」と共感も得やすい。だが、そうした考えは投票日が近づくにつれ、投票者が「でも、本当にそれで大丈夫か」と我に返った際には脆い。こうした力学が働くことが予想されたので、一次投票でのミレイ氏圧勝は難しいだろうとコラム子は読んだ。
予想根拠はまだある。それはアルゼンチン本国でミレイ氏が苦戦するとの世論調査結果がすでに出ていたことだった。ミレイ氏は9月の世論調査では優勢だったが、10月に入ると、与党候補のセルヒオ・マッサ氏が追い上げ、逆転するとの予測も出ていた。世論調査の規模が大きくなればなるほどがマッサ氏のリードが予想された。
ブラジルのメディアはこの時点で「戦線異常あり」と報じることができたはずだが、ミレイ氏圧勝予想のまま進んだ。世論調査結果を知っているはずのブラジルメディアの圧勝予想はこの点で大きく矛盾しており、なぜ予想を変えなかったのか不思議でならない。
さて、大統領選は結局、世論調査のほぼ予想通りとなる6%ポイントリードでマッサ氏が決選投票に進むことになった。
だが、これでマッサ氏が有利になったともコラム子は思っていない。22%の支持で3位になったパトリシア・ブルリッチ氏がミレイ氏を支持したためだ。ただ、ブルリッチ氏のミレイ氏支持は予想されていたため驚きはなく、中道保守の同氏の強い支持者にはアンチ・ミレイも少なくない。ミレイ氏が逆転するためにはブルリッチ氏に票を投じた人の8〜9割ほどが同氏に投票する必要がある。(陽)