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《記者コラム》次期最高裁判事ジノ氏指名に思う3つの懸念点

2023年12月1日

ジノ氏(Wilson Dias/Agencia Brasil)
ジノ氏(Wilson Dias/Agencia Brasil)

 次期最高裁判事にウラヴィオ・ジノ氏が指名された。この指名に関してはとりわけ賛否両論が強く、ネット上でも政治批評家による多くの意見が噴出している。ジノ氏指名に懸念を覚えるのはコラム子も同様で、今回はその理由を綴ってみたい。
 まず一つ目は、これは以前にも書いたが、女性判事が辞めた後なのに女性判事を選ばなかったこと。国内でこれだけジェンダー・バランスが声高に叫ばれ、それを推進してきた労働者党(PT)のボスであるはずのルーラ氏がそれを裏切る形となってしまった。これで最高裁の中の男女比は10対1。これは国際基準で見て後進的だと言われても仕方がない。
 次にジノ氏に判事の適性があるかどうか。同氏には、マラニョン州知事時代の姿から「自分で決断し、自分で引っ張る」という印象がある。その行動力の強さ、迅速さは1月8日三権中枢施設襲撃事件の際にも十分発揮された。その主体的な手腕は政治家としては立派だし、現に彼はルーラ政権の中で最も評価と人気の高い存在の一人だが、判事としての資質として評価できるかには疑問符が残る。
 司法の場というのはあくまで他人を裁く場であり、自分が主役になるものではない。いわば、本来的には影の存在だ。そうした場でジノ氏が本来の才能を発揮することができるのか。
 ジノ氏には、その法相としての手腕から、大統領候補に推す声もある。その強さは2018年大統領選次点のフェルナンド・ハダジ財相、22年大統領選3位のシモーネ・テベテ予算企画相に勝るとも劣らない。
 最高裁判事に就くことでジノ氏の政治家としての才能が殺されはしないか。そう考えると非常に惜しいと言わざるをえない。
 3つ目の懸念点は、ボルソナロ派から反発の強いジノ氏を最高裁に送り込むことで、ボルソナロ派の最高裁嫌悪をみすみす高めてしまうことだ。
 現在の最高裁には選挙高裁長官も務めるアレッシャンドレ・デ・モラエス判事を筆頭に、ロベルト・バローゾ長官、ジウマール・メンデス判事とボルソナロ派が反感を抱いている判事が目白押しだ。そこにジノ氏が加わることは、火に油を注ぐことになるのではないだろうか。
 モラエス氏にジノ氏が加わった最高裁の陣容は「圧力に屈しない」という点では過去最高の布陣になるだろう。独裁主義傾向の強いボルソナロ派に対抗するにはこれくらいの強さが求められるという人もいる。この強さによって最高裁への反発が鎮まれば良いが、逆に刺激となってしまえば、攻撃をエスカレートさせかねない。その不安は残る。(陽)


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