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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=97

2024年2月28日

 そのうちに、胃がおかしい、肝臓に異常がある、などと言い出す。母はこらえ性のない性格で、快復すると無性に歓び、以前の食養生なども忘れて固形物を欲した。私たちは そのことに余りやかましく言わないことにしていたので、消化不良の兆候か、神経質な母の取り越し苦労だと慰めたが、ある日、とうとう医師を訪れた。医師は一昨年のカルテを取り出し、症状を訊き、それは盲腸炎ですね。
しかし切除するほどのことないですよ、と事もなげに答えたが、私には苦し紛れに吐く虚言としか取れなかった。
「奥さん、申し訳ありません。ちょっと娘さんに、お話がありますが……」
 医師は診察室から母に席をは...

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