小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=97
そのうちに、胃がおかしい、肝臓に異常がある、などと言い出す。母はこらえ性のない性格で、快復すると無性に歓び、以前の食養生なども忘れて固形物を欲した。私たちは そのことに余りやかましく言わないことにしていたので、消化不良の兆候か、神経質な母の取り越し苦労だと慰めたが、ある日、とうとう医師を訪れた。医師は一昨年のカルテを取り出し、症状を訊き、それは盲腸炎ですね。
しかし切除するほどのことないですよ、と事もなげに答えたが、私には苦し紛れに吐く虚言としか取れなかった。
「奥さん、申し訳ありません。ちょっと娘さんに、お話がありますが……」
医師は診察室から母に席をは...
有料会員限定コンテンツ
この記事の続きは有料会員限定コンテンツです。閲覧するには記事閲覧権限の取得が必要です。
認証情報を確認中...
有料記事閲覧について:
PDF会員は月に1記事まで、WEB/PDF会員はすべての有料記事を閲覧できます。
PDF会員の方へ:
すでにログインしている場合は、「今すぐ記事を読む」ボタンをクリックすると記事を閲覧できます。サーバー側で認証状態を確認できない場合でも、このボタンから直接アクセスできます。