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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=104

2024年3月9日

第三部 うるんだ眸
(一)
 
 ある企業の創立五〇周年記念式典に招待されて矢野浩二がブラジルから訪日したのは、桜の花も散った新緑の五月初旬であった。プログラムがぎっしり詰まっていて、この度は親戚、友人の訪問も略さなければならぬ状態であった。度たびの訪日なので失礼した方が先方に迷惑をかけずにすむと考えていたのも事実だ。
 ただ一人だけ、中津千江子という女性のことが心にあったので、せめてその安否を知って帰りたいと、ある夜、ホテルから電話した。
「どちらさまでしょうか」
 という声が、受話器を伝わってきた。千江子のようでもあり、少し若い女性の声にも聞こえた。...
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