小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=105
妻は胃癌を患っていた。手術後、一、二年の寿命と言われ、そのことを妻に隠していたが、せめて本人が希望していた訪日を叶えてやりたいと思い、かさむ医療費と並行して訪日預金も続けていた。が、妻は病魔に再発されて、逝ったのである。病妻であっても共に生きていることに安らぎをつないでいたが、逝かれてみると全てのものに張り合いをなくしてしまった。妻と約束した訪日なども無意味なものとなっていた。娘の典子が、歳に似合わず父の気持ちを推し量ってしきりに旅行をすすめるので、それもそうだな、とあいまいな気持ちで旅発った。
空虚な思いで訪ねた故郷だが、来て見ると、やはり、それなりの感慨が...
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