《記者コラム》ラヴァ・ジャットから10年

今年の3月17日で、ラヴァ・ジャット(LJ)作戦の捜査開始からちょうど10年が経過する。これに向けて様々な媒体が記念記事を書き始めているが、それほど盛り上がっているようには見えない。10周年当日が近づけば盛り上がるのかもしれないが、現段階ではそのようには思えない。
盛り上がらない原因はやはり、LJ自体が引き起こした信用失墜によるものだろう。LJは「ブラジル最大の汚職捜査」と銘打たれ、それまで国内政界に不信感を抱き続けていた国民の心を捉えた。少なくとも捜査が始まって5年ほどは連日LJの話題で持ちきりだったし、担当判事だったセルジオ・モロ氏は国の英雄だった。モロ氏の人気は、2019年の上半期までは続き、世論調査でも「大統領選でボルソナロ氏に勝つ候補がいるとしたらモロ氏」とまで言われていた。
ただ、これらの人気は2019年6月に起こった「ヴァザ・ジャット報道」ですべて覆された。ハッキング記録で浮上した、モロ氏とパラナ州連邦検察の癒着ぶり、捜査の偏りと司法取引の進め方の強引さ。そうしたものが白日のもとに晒され、国民の敵のような立場に置かれ、実刑判決で服役中だったルーラ氏は同年10月に釈放され、大統領に返り咲くことになった。
LJにとってヴァザ・ジャットは確かに痛かった。ただ、それ以前から、とりわけモロ氏が政界に色気を見せはじめてから怪しさは浮上していた。
2018年大統領選におけるロザンジェラ夫人のなりふり構わぬボルソナロ氏の応援に、モロ氏のボルソナロ政権入閣。モロ氏は大統領選一次投票直前のタイミングで労働者党(PT)政権の重要閣僚だったアントニオ・パロッシ氏の、後に証拠なしとして却下された司法取引での証言の公開を許した。ルーラ氏と後継のジウマ元大統領の不正疑惑が語られたその内容は、ルーラ氏の代理候補フェルナンド・ハダジ氏に大きなダメージを与えた。
捜査においてもPTと民主運動(MDB)の政治家に捜査が集中し、本来もっとも捜査対象が多かったはずの進歩党(PP)の政治家が捜査されない不自然さがあった。10年後、PPは中道勢力セントロンの要として政界を牛耳っている。
LJ信用失墜の結果、モロ氏との強い仲がかねてより噂されていた民主社会党(PSDB)は、PTのライバル政党という立場から、結党以来最大の危機状態にまで勢力を失っている。モロ氏と検察捜査主任のデルタン・ダラグノル氏の支持低下は、両氏が政界進出して以降に行った保守寄りの言動で彼らの本音が露わになったことも響いている気がするが。(陽)