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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=111

2024年3月22日

 千江子は台所に入ると、着物の上に白いエプロンをつけた。やかんを火にかけ、湯飲みなどをそろえている。生活のやつれの見えない、どちらかと言えば有閑夫人のような女にでも、実生活にはそれなりの苦渋があるものだ。が、表面に出ないのは生まれがいいということなのだろうか。田島の言う昔の公家の子孫でもあるのか、千江子の後姿を追いながら矢野は漠然と考えていた。床の間に飾ってある桔梗が何かを話しかけでもするように、楚楚とこちらに向いて咲いていた。千江子は、しなやかな手つきで茶を注いで矢野にすすめがなら、小卓の横に座り、自分も静かに湯飲みをもちあげた。
 
(三)
 
 高田家...
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