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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=115

2024年3月28日

 矢野は八重子の手から火のついた線香を受け取り《中津家先祖代々の墓》と記した菱形の自然石の前に立って、合掌した。複雑な気持ちが胸に込み上げてきて、矢野はその場にしゃがんだまま、暫く立ち上がることができなかった。そこが日本なのか、ブラジルであるのか、境界のはっきりしない世界に迷い込んだような混沌とした意識の中にいた。どこかで梟の鳴く声が聞こえ、墓碑の傍らの笹の葉が風にざわざわと音を立てた。
〈終わり〉
第四部 パパイ横見しないで
(一)
 
 五時半を告げる目覚し時計が鳴った。娘の和子の部屋からであるが、眼を覚ますのは私の方だ。しかし、起こすと機嫌を損ねるの...
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