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小説=流氓=薄倖移民の痛恨歌=矢嶋健介 著=117

2024年4月3日

 私と貴美の結婚生活は、十八年目で終わった。友人の銀婚式に招かれて、私たちもあと七年経ったら盛大にやるわ、その時にはダイヤモンドの指輪が欲しい、新型の自動車が欲しいと楽しみにしていたのに、その日を待たずに妻は手折るように逝ってしまったのだ。
 和子は結婚後一年で生まれた一人っ子で、今年十七歳である。私はハンドルをパウリスタ大通りへ向けて切り、妻の眠るアラサ墓地へ行った。
「どうせ人間は死ぬけど、もう暫く生きたいわ。今私が死んだら和子もまだ子供だし、パパだって毎日の炊事が大変でしょう……」
 と心配しつつ病魔と戦っていた貴美の苦衷の日々が悲しく甦ってきた。癌であ...
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